「では、この句を…一ノ瀬さん、読んでください。」


突然呼ばれたので驚いて開きぱなしの教科書をおとしてしまいそうになった。

いつもなら当てられて面倒くさって思うのに、
今日は名前を呼ばれた嬉しみの方が大きい。


「えっと…、玉の緒よ絶えねば絶えねながらへば
忍ぶることの弱りもぞする。」


先生に言われた句を読み上げる。

授業、真面目に聞いてて良かった。

どこですか?なんて聞いたら、
印象最悪になっちゃうもんね。


「ありがとうございます。
この句は式子内親王の歌で、百人一首を代表する抑えた恋の激情を感じさせる歌です。」


恋の感情を抑える。
そんな事って出来るの?


「この歌はもともと「忍ぶ恋」という題を与えられていたと、新古今集の詠題にあります。妻ある人への恋とか…禁断の恋って言うやつです。」


______禁断の恋。


また心臓がドキッとする。

そうだ、良く考えれば先生に対するこの感情は禁断の恋なんだ。


だって、先生に恋をしてはいけないんだから。


何故、1度ドキドキしてしまった心臓は言うことを聞かないの。

これは恋…なのかな?


この句の現代語訳。

凄く苦しそうで、辛そうで…なのに何故か私は幸せそうだと思ってしまう。

だって、何だか…。
よく分からないけど、羨ましいとすら思っている自分がいる。



我が命よ、絶えてしまうのなら絶えてしまえ。このまま生き長らえていると、堪え忍ぶ心が弱ってしまうと困るから。
 

私もこんな風に強くそして弱くなりたい。


「では、次の句を…」



あぁ、授業が永遠に終わらなければいいのに。