「天空!サンキューな!」
「いいよ、慣れてるから。」
蒼に振り回せる日々。
慣れたものだ。
だって、小さい頃ずっと何だもん。
私、一ノ瀬 天空(イチノセ ソラ)と八坂 蒼は物心つかない頃からずっと一緒。
だから、友達って言うよりは家族とか兄弟とかの方が近いと思う。
良い所も悪い所も知ってるし知られている。
それが嫌って事はないし、むしろまだ仲良くしてくれてるのは有難いんだけど…。
「じゃあな、チュッ」
「ちょっと!止めてよっ!」
距離が近すぎるのが最近の悩み。
いくら幼馴染で家族みたいだって言ったって、
いくら口じゃなくて軽いほっぺのキスって言ったって、
付き合ってもない男女が学校で、しかも人前でキスするっておかしくない?
「やっぱ付き合ってるでしょ。」
「蒼君と幼馴染とか羨ましい!!」
「本当、美男美女だよね~。」
しかも、クラスは凍り付くどころかやっぱりね?みたいな感じなの。
あんなデリカシーのないやつ、絶対彼氏にしたくない。
「今日もラブラブだねっ!天空!」
「なっちゃん、いつも言ってるけど私は…!」
「彼女じゃない!でしょ?もう聞き飽きたって。
別に悪くないと思うけどね、蒼くん。」
彼女の名前は北条 棗(ホウジョウ ナツメ)。
高校からの友達。明るくて美人で面白くて優しくて…良い所の尽きない人気者。
私なんかといなくても、彼女と仲良くしたい女子は沢山いるのに。
そんな事を前に彼女に言ったら…
『天空は嘘つかないから!だから私は天空といたいのっ!』
と、男子が見たら即イチコロって感じの可愛い笑顔でそう言われた。
確かに、自分を装ったり変に気を使ったりするのって嫌いだし、多分得意じゃない。
それに何はともあれ、彼女のお陰でクラスで一人ぼっちにならないでいるからとても感謝しているんだけど。
「嫌だよ、あんな馬鹿なヤツ。」
「ふ~ん。せっかく美男美女なのに。
本当、どっちも恋をした事がないって不思議!」
「そう?好きとかってよく分からない。あと、美女でもないし。」
「よく言うよ!こんなに可愛い顔して~!」
「ふぇ!」
なっちゃんが私のほっぺを優しくつまんだ。
だから…あんたが可愛いって。
キーンコーンカーンコーン
「では、授業を始めまーす。」
チャイムがなり、先生が教室に入ってくる。
あれ…?古典の先生ってこんな人だっけ?
もっと、何て言うかおじいちゃんじゃなかったっけ…。そう、名前は確か何とか寺…!
「急遽2組の小野寺先生がお休みされたので、6組の担任で古典の担当をしています、朝倉楓(アサクラ カエデ)が授業をします。」
朝倉先生が綺麗な字で黒板に名前を書く。
書き終わると振り返り、にこっと笑った。
「よろしくお願いします。」
…恋に落ちる音がした。