26話「最終日の夜の風は」




 翠が色の家を飛び出してた、次の日。

 本当ならば仕事に行く日だったが、翠は微熱が出てしまいまた休んでしまった。
 普段なら、これぐらいの熱で仕事を休むことはしなかった。だが、大泣きをしてしまったせいか、また目が腫れてしまい、また岡崎に心配をかけると思ったのだ。

 しかし、それも理由付けにすぎないのかもしれない。

 翠は色を待っていた。今日は家庭教師の日だった。だから、色が家に来るのを緊張した面持ちで待っていた。
 もしかしたら、心配して早くに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待さえも心の中にあったのかもしれない。


 だが、色は家庭教師の時間になっても来ることはなかった。
 多めに作った夕飯と、鳴らないスマホを見つめながら、翠は泣くのを必死にこらえながらその夜を過ごした。




 次の日は、仕事に行き長期間休んだことを岡崎やスタッフに謝罪をした。みんなからは心配の声をもらい、翠は元気になったと伝えたけれど、岡崎だけはそれを遠くから心配そうに見つめていた。

 その日も色は、家に来る事はなかった。





 それから1週間経った日。
 翠は、朝早くに起きて花火大会があった河川敷に来ていた。指輪を探すためと自分に言い聞かせていたけれど、心の中では違っていた。
 もしかしたら、まだ探してくれているかもしれない。彼がいるかもしれない。
 そんな期待をしていた。

 翠は色に会わなくなってから、指輪を探すことはしなかった。寂しいし悔しいのは変わらないけれど、諦めてしまっていた。
 叔母には、空を見て祈れば話し掛ける気がしたし、色にあんな事を言ってしまった手前、ここで会うのは怖かった。


 けれど、今日は違う。
 今日が終わってしまったら、色とはもう会えなくなってしまうのだ。
 それ日がついに来てしまい、会えなくなると思うと焦り怖くなってしまったのだ。


 「冷泉様……。冷泉様に会いたいです。」


 自分でも勝手なことをしているのはわかっていた。彼に離れたくてあんなに酷い事を言ったのに、こうやって彼との時間が終わりそうになると、寂しくなって後悔する。
 わがままでバカな女だ。

 広い広い河川敷で、翠は大好きな彼の姿を探し続けた。
 けれども、そこには彼の姿はなかった。