戻ってきた色は、明日は早く起きると言って、翠と同じ時間に寝ることにしたようだった。何も言わなくても、同じベットで休んでくれる色を間近で見ると、恋人同士になったのでは、と錯覚してしまいそうになる。
 けれど、隣にいる色はキスをしたり、裸の肌を触れ合わせたり、恋人がするような事はしてこない。
 しかし、今日は翠の手を握ってくれていた。体調を崩して弱ってるのがわかっているからか、甘えたい気持ちが伝わっているようだった。

 昨日は、翠が先に寝てしまったけれど、今日は色がすでに静かな寝息を立てて寝ている。
 前に料亭で見た時と同じように、幼い寝顔だ。隣に恋人でもない、そして色に好意を持っている女がいるのに、安心しきった顔をしている。
 翠にとってそれは嬉しいことだけれど、少しだけ切なくもある。


 「私が襲っちゃうかもしれないんですよ……?冷泉様…。」


 翠は彼を起こさないように、そっと体を起こして彼の頬にキスを落とした。一瞬の事だけれど、唇に彼の熱を感じてしまう。隠れていけない事をしてしまったようで、ドキドキしてしまいながらも、久しぶりの彼とのキスに、翠は嬉しさを感じながら眠りについた。







 夏の朝日は早い。
 5時前にはもう空が明るくなり、2人が寝ている寝室も明るくなる。しかもここは高層ビルなので朝日を遮るものはない。カーテンをしていても、朝が来たことがわかった。

 朝日を感じたのか、寝ている人を起こさないようにと、彼はゆっくりと起きてベットを抜けようとしていた。


 「冷泉様。………おはようございます。」
 「…………、おまえ起きたのか。まだ朝早いから寝てろ。今日まで仕事休みだろ?」
 

 色は、起きたのがバレてしまった事に驚いた様子だったが、また翠を寝せようと頭をポンポンと優しく叩いた。
 だが、翠は起き上がって色の手を掴んだ。


 「冷泉様。今から、指輪を探しに行くんですよね?」
 「………なんの事だ。朝は走ることにしているだけだ。」
 「そんなの嘘です!昨日の朝は走るような格好で、出掛けていませんでした。」
 「…………。」
 「それに、花火大会の次の日、スーツのズボンに泥がついていました。わざわざ河川敷に行ってくれたんですよね?雨が降った後だからきっと泥がついちゃったんですよね。」


 翠は色が指輪を探しているのに気づいていた。

 スーツに泥がついていたのに気づいたのは、きっかけに過ぎなかった。昨日、色が帰ってきた時には少しだけ草の香りがしたし、昨日の朝も早くに起きたら、色はもうベットにいなかった。帰ってきた頃に丁度リビングにいると、「おまえ、起きてたのか。」と、気まずそうな顔をしたのを見て、翠は違和感を感じたのだ。