「なんか、涙目になってないか?」
「……少しだけ頭が痛くなってきました。」
「どれっ。……熱っぽいな。」
色は翠の金色の前髪を上げて額に手を当ててそう言った。普段ら温かく感じる彼の手が、今日は積めたく感じてしまい、自分が熱があるのがわかった。
「早くベットで寝ろ。」
「冷泉様は、どうするのですか?」
「俺はここでいい。気にするな。」
色はリビングのソファで寝るつもりらしい。きっと、昨日もそうしたのだろう。いくらこのソファが大きいとはいえ、身長も高い男の人が寝るのは窮屈で、体も休まるはずもなかった。
「………あの、冷泉様。よろしかったら、一緒に寝てくれませんか?……ベットも広いですし。それでなかったら、私がソファで寝ます。」
「何言ってんだ。どっちもダメに決まってんだろ。」
「…………指輪がなくなってしまって不安なのか、さっきみたいな夢を見てしまいそうで怖いんです。」
翠は半分嘘だが、そう言った。いつも一人でいるのだからきっと寝れるはずだった。色をベットで寝せるためにはそう言うしかなかった。ソファてで寝ると言っても、色は納得してくれないのはわかっていた。それに、先程の夢はやはりかなしすぎるので見たくはなかった。
お願いするように彼の目をジッと見つめると色は、翠を見つめ返した後にため息をついた。
色は眼鏡を外して、こちらに近づいてくるのを翠は少しだけ残念に思ってしまった。心の中で「眼鏡姿もかっこいいな。」と思っていたのだ。
「おまえな………俺だって一応男なんだぞ。何するなわからないだろ。」
「冷泉様は、弱ってる人を襲うような人じゃないってわかってるので。」
「………はぁーー。わかったよ、先に寝てろ。仕事終わったら寝るから。」
「………眠るまで一緒にいてくれないんですか?」
「子どもかよ。」
「今日だけでいいので。甘えさせてください。」
やはり熱があるのかもしれない。
こんな誘うような言葉がつらつらと恥ずかしくもなく出てしまうのだから。
涙目で視界が滲む。目を擦って、色を見ようとするとその間に彼はすぐ近くまで来ており、気づいたときには彼に抱き抱えられていた。
ふわりと彼の胸に横顔が押し付けられる。お姫さま抱っこというのは、まさにこういう状態だろう。
「れ、冷泉様っ!?私、歩けます!そこまで甘えるとは……!」
「お子様なんだから、仕方がないだろ。………暴れたら落ちるから静かにしとけ。」
「うぅーー恥ずかしいです……。」
「煽ったらお前が悪い。」
少し怒ったように言うが、顔はニヤついている。そんな時の彼は、本当は怒っていないと翠は知っていた。
ドキドキと鼓動が早くなるのは熱のせいなのか、彼に抱っこをされているせいなのか。それはわからない。けれども、彼に抱き抱えられてるのは、恥ずかしくもあり、特別なことのようで、幸福感もあった。
ゆっくりとベットに体を置かれ、そして色もその隣に横になった。
すぐに彼の体温と白檀の香りが流れてきて、翠は安心してしまう。
ベットに横になった途端に眠気を感じたのはきっと、まだ体が疲れているからなのだろう。
開ききらない目でとろんと色を見ると、色はうっすらと笑い、「眠たそうだな。」と言いながら頭を撫でてくれた。
「私、冷泉様の香りが好きです。」
「………これか?同じものをやろうか?」
「……いえ。冷泉様の香りだから好きなんです….…。とっても、安心する。」
「………。」
無言で、寝かし付けるように頭を撫でられ、そしてうとうとしているうちに、いつの間にか彼に抱き締められていた。
優しく抱き締める彼の胸からは少しだけ早い鼓動が伝わってきた。
あぁ、彼も私と同じなんだ。そう思えて、翠は幸せな気持ちになり、ゆっくりと目を閉じた。
この続きを夢でも見られますようにと。