24話「早い鼓動」



 
 翠は色の家のお風呂に浸かりながら、ぼーっと考えていた。
 色の家は、お風呂も大きくて翠が足を伸ばしても、端には届かないぐらいバスタブは広かった。
そんなにも広いのに、翠はちょこんと膝を曲げて、丸まってお湯に浸かっていた。

 色は、すごく面倒見がよかった。それは家庭教師をしている時でもわかってはいたことだったが、今はその時以上だと感じられた。病人だからというのもあるだろうが、色はいつもよりも更に優しかった。


 「なんか、今日もここに泊まることになってるけど、ここにいてもいいのかな?」


 そんな事を思ってしまうのだ。
 お風呂に入るときには、女物の新品のパジャマに下着まであった。色が自分で買いに行ったのかと考えると申し訳なくもあり、恥ずかしい気持ちにもなった。それに、少しだけ色のTシャツをもっと着ていたかった気持ちもあった。ほんのり彼の香りがするような気がして、翠は着ているだけでドキドキした。


 「あー!ダメダメ!変なこと考えないようにしよう。」


 翠はすぐに体を綺麗にして上がることにした。シャンプーやボディソープ、メイク落としや
スキンケアまで一式買ってきてくれていたのには驚いてしまった。翠が使ったこともないような高級なものばかりで、使うのが申し訳なかったけれど、ありがたく使用した。
 いつもより、綺麗になった気がして、少しだけ色に会うのが素っぴんでも大丈夫かな、と思えてしまう。


 お風呂上がりにリビングにいくと、眼鏡をかけてPCを見ている色がいた。
Yシャツの上3つのボタンを開けて、髪もいつもよりくしゃっとしていた。


 「お風呂あがりました。ありがとうございます。」
 「あぁ。何か食べるか?」
 「いえ、あまり食欲がなくて………。残りのフルーツを少しだけいただきたいです。」
 「そうか。薬も飲めよ。」
 「はい。………あの、冷泉様。いろいろありがとうございます。」
 「だから気にするな。」


 色は、PCから視線をこちらにうつして苦笑気味に言った。


 「でも、食事だけじゃなくて、パジャマとかスキンケアとか、その………下着とかまで、本当にすみません。」
 「………あぁ。俺はそんなに女物詳しくないからな。店の人に聞いてそのまま買っただけだ。」
 「それだけで十分嬉しいです。」
 「………早く薬飲んで寝ろ。まだ、治ったわけじゃないんだからな。」


 色は立ち上がって、フルーツや薬を準備してくれる。翠は少し頭がぼーっとしてきたので、好意に甘えてリビングのソファに腰を掛けた。