ありがたく色が作ったお粥を食べたが、あまり食欲もなく半分で残してしまった。フルーツを2つ食べ、薬を飲んだ。残したものを冷蔵庫に入れて、リビングのソファで外を見ながらボーッとしてしまう。手には色が書いてくれたメモ書きがあった。
翠は、それを大切に眺め、こっそりと持って帰る事にした。
そのメモを持っている右手をフッと見ると、そのにはずっとあったはずのものがなくなっている。
「おばあちゃん。ごめんね。元気になったら探すから………。」
真っ青な空を見つめながら呟く。
すると、薬のせいなのか、眠気が襲ってきた。ベットに移動するのも辛く、そのまま大きめのソファに横になって目を閉じた。
おばあちゃんの夢を見るんだろうな。そんな予感が翠にはあった。
その予想は少し当たっていた。翠は夢の中で、遠い昔の記憶の中にいた。
翠は根っからのおばあちゃんっ子だった。
翠の父親は早くに亡くなっていて、翠は写真でしか父親の顔を見たことがなかった。そのため、母親は、朝から晩まで忙しく働いており、翠は小さな頃は体も弱かったため、祖母の田舎の家に預けられていたのだ。
そこで、翠は祖母からギリシャ語を教えてもらっていた。
祖母との時間はとてもゆったりしていて、キラキラとしていた。祖母は、とても優しくてが可愛い人だった。
ずっとここで暮らせるものだと思っていた。けど、その時間は長くはなかった。
小学生低学年の頃。ある事故に巻き込まれたらしい。翠はその時の記憶が曖昧だった。
怪我をして、更に記憶の欠陥があることがわかり、翠の母親は、祖母を激しく非難して、そこから縁を切った。母親と翠は、祖母から離れるように、遠くへ引っ越しをした。
祖母は、何度も「エメルちゃん、ごめんね。」と泣いて謝っていた。祖母は何も悪いことはしていないのに。その泣いたら顔の祖母が、最後に見る祖母の表情になるとは思いもよらなかった。
引っ越してから、1年後に祖母は病で亡くなった。家の中で独りきりで死んでいたと聞いた時は、翠は激しく泣きじゃくった。いつも着けていた祖父からの贈り物の指輪だけは絶対に貰うと母親を説得して、それからずっと身に付けていた。学校に行くときは、ポーチに入れ、家に帰るとすぐにつけていた。
成人してから、母親が亡くなり持ち物を整理していると、祖母のものがほとんどないことに気づいた。母親は、全て処分してしまったようだ。
そのため、あの指輪は、祖母との記憶そのものなのだ。
夢だとわかっていても、悲しい過去を何度も見るのは辛かった。
今は、祖母の笑顔を見るのも申し訳なくて、涙が出てくる。
「おばあちゃん、ごめんね。絶対探すから………だから、待っててね。おばあちゃん………。」
頬に温かい感触を感じた瞬間、翠はパチリと目が覚めた。
目の前には、見知らぬ天井。照明がつけられており、辺りは明るかった。