22話「傷跡」
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色は、翠の行動の意味が時々わからなかった。
いや、わかろうとしないようにしていたのかもしれない。
家庭教師の報酬をキスにしたのか。
翠の家に自分を招いたのか。
手を繋ぐのを拒否するのか。
右手の薬指の指輪を大切にするのか。
その理由を聞くのが怖くて、逃げ続けた結果が、今回の出来事のきっかけを作ってしまったのは、色自身がよく理解していた。
(俺は翠にどうしてもらいたいのだろう。)
それを考えると、よくわからなかった。
ずっと憧れ探している人に似ているから。
ただ、それだけで近づいた。そして、彼女の話す魔法のような言葉を聞いて、更に目が離せなくっていた。
それからは、泥沼にはまるように彼女に捕らえられてしまった。知れば知るほどに、気になる存在になった。
でも、告白された瞬間に「翠はあの人ではない。」と冷静になってしまったのだ。
自分でも最低な男だと思う。
甘い香りで誘い、寄ってきたら拒否をしたのだ。
それなのに、彼女は離れなかった。
そして、俺もそれを拒絶出来なかった。
契約の関係。
愛人のように愛する行為だけを楽しむ、最低な男になっていた。
3ヶ月だけと決めて、それが終われば諦められる。そんな風に考えていた。
だけれど、翠の影に男の存在があれば激しく嫉妬をして、彼女の誕生日は独占したいと考えてしまう。
そんな時、翠が初めて自分を拒否して、逃げた。
色は焦り、激しく動揺してしまった。そして、その気持ちに驚きもした。
今、腕の中でぐったりする彼女を見つめる。色は、ただ守りたいと思った。純粋に、そして強く。
濡れることは気にせずに、傘で強い雨粒から翠を守り、濡れた巾着からスマホを取り出した。
この突然の豪雨だ。タクシーを呼んでも見つからないのはわかりきっている。色は、会社に電話をした。
「俺だ。運転手は誰かいるか。知り合いが倒れたから、急いで車を呼んでくれ。あぁ、悪いなこんな時間なのに。おまえも早く帰れよ。場所は………。」
色は細かく場所を指示して、大きめのタオルも準備するように伝えた。
到着するまでは時間がかかるだろう。
翠を抱き上げて、雨宿りが出来る場所を探した。
翠を抱えながら歩いていると、2人がお好み焼きを買った出店のスタッフが気づいて、片付ける前だった出店の中に入れてくれた。
翠の事を覚えており「お嬢ちゃん大丈夫かい?指輪は見つかったのか?」と、心配してくれた。
色は、借りたタオルで濡れた翠の顔や、首を拭いた。彼女は、夏だというのに肌は冷たく、震えているのがわかった。
色自身も濡れた着物のせいで大分体温を奪われていたが、それでもまだ彼女より熱はある方だった。
そのため、彼女をぎゅっと強く抱きしめて、彼女が少しでも温かくなるようにと、願った。
ほんの少しだけ、彼女の辛そうな表情が和らいだ気がしたのは気のせいではないと、信じたかった。