ポツポツ……と、空から雫が落ちてきた。
さきほどの晴れの夜から一転。いつの間にか空はどんよりとした雲に覆われていた。
あっという間に、ザーーという雨に変わってしまった。
花火大会の会場も撤収されて、今は人影はほとんどない。雨のせいで、観客はいそいで帰っていく。
翠は全身がずぶ濡れになり、足元の下駄や浴衣の裾は泥だらけになっていた。
とぼとぼと歩いてついたのは、色と一緒に見た予約席があった場所。数人のスタッフがいる程度で、ほとんど明かりもなくなっている。
色と一緒に歩いた場所は全てまわった。暗いところはスマホの光を頼りに探したけれど、指輪が見つかることはなかった。
「………おばあちゃん、ごめんなさい………。」
冷えきった体に温かいものが落ちてきた。それが自分の涙だと気づいた頃には、翠はその場に立ち尽くしていた。
もうどうすることも出来なかった。
浴衣は雨水を吸ってとても重くなり、そして夏なのに冷たくなっていた。寒いはずなのに、体の芯は熱くて、頭はボーッとしてしまい、考えられるのは指輪の事だけ。
これからどうすればいいのかも、考えられずにいると、雨音が変わり、体がこれ以上濡れなくなった。
「………ここにいたのか。」
気づくと傘をさして翠の体を支えてくれる、色が側にいた。
彼も濡れており、呼吸は荒かった。探してくれていたことがわかったが、翠はそんな事を考えられる状態ではなかった。
「冷泉様………指輪、見つからなかった。なかったんです………。私、どうすればいいんだろう………。どうしよう………。」
ボロボロと涙を溢しながら、翠は支えてくれている色の胸に顔を埋めた。冷えきった体が、色のほんのり温かい体温で少しずつ安心してくる。
すると、今まで平気だったが、急に体に力が入らなくなり、翠はその場に座り込んでしまった。泥だらけになるのも気にせずに、ゆっくりと目を閉じていく。
もう立つのも、目を開けているのも難しく、しずくは意識を飛ばしそうになっていた。
何も考えられなくなる前に、翠は「俺が見つけてやるから。もう泣くな……。」という、切ない男の人の声が聞こえた。
そして、少し前になくなった温かい手の感触。ぎゅっと手を握られているのがわかった。
その声と言葉を聞き、そして手の温もりを感じて、翠はほっとして目を瞑った。