だけれど、和装が多い色は歩き慣れているために、すぐに翠に追いついて、腕を引っ張り色を自分の方に向けた。
「待ってって言ってるだろ!」
「冷泉様……離して下さい。」
「落ち着け。闇雲に探しても見つからないだろう。」
花火大会中であっても、周りには大勢の観客がいる。色と翠の様子を遠巻きに見ながら通り過ぎる人々が沢山いたが、2人はまったく気に止めていなかった。
「…………。」
「まずは、拾得物を集めてるところを探す。その後に歩いた所を探せばいいだろ。」
「………離して下さい。私は冷泉様みたいに冷静にはなれないんです。あれは、とっても大切なものなんです!無くせないものなんです!」
「………そんな大切なもの、付けてくるな。」
色の冷たい言葉が、翠の瞳を揺らした。
泣きそうになった目は、すぐに怒りの色に変わり、涙を浮かべながら色を睨んだ。
今まで彼をそんな風に見たことなんてなかった。けれど、今はそんな余裕すらなかった。
彼の言葉が心にグサリと刺さり、痛く、苦しかった。
「離して下さいっっ!私の事、好きでもないならほっといてください!あの指輪は私の支えなんですッッ!!」
色の腕を振り払い、彼の胸を軽く押して、翠は色から逃げ出した。
色は、何も言わずにその場に立ったまま、翠を追いかけることはしなかった。
翠は必死になって、色と歩いた場所へ向かった。
その時、花火大会が丁度終わりを迎え、人並みに飲み込まれてしまい色は翠の姿を見失っていたのだった。
その後、翠は色と一緒に会場に入ったところから、地面を見つめながらゆっくりと歩いた。
人の流れと逆の方向に歩くため、何度も人にぶつかって転びそうになった。けれども、頭の中は祖母の思い出と、指輪との記憶しかなかった。
色に言われたことは、最もな意見だった。
けれども、大好きな祖母の指輪は毎日の支えであり、身につけていることで守られている気持ちになっていた。心の支えだった。
それがなくなって、冷静でいられるはずがない。
(冷泉様のバカ………。あんなこと言わなくてもいいのに……。やっぱり私はただの遊び相手で、お互い慰めあってただけの存在だったんだ。)
そんな事を思っては、更に悲しくなり涙が溢れてきた。
自分が望んでいたことのはずなのに、現実を突き付けられると、それは心に大きな傷をつけてしまった。
2人で手を繋いで歩いた道を、翠は1人で下を見ながらゆっくりと歩く。キラキラと光る、あの翠の宝石はどこにも見当たらなかった。
買い物をした出店にも声を掛けてまわったけれど、見かけ人は誰もいなかった。