「それだと、この浴衣着れないだろ?」
 「練習してから着れるようになります!」
 「出掛けるつもりで、俺も浴衣着てきたんたぞ!」
 「………浴衣で………お揃いですか!?」
 「おそっ…………まぁ、そうなるな………。」
 

 自分で浴衣を着てきたのに、何故か恥ずかしそうにする色を見ながら、翠は「お揃い」という言葉に惹かれていた。
 頭の中で、色と一緒に浴衣を着て歩く姿を想像するだけで、幸せで顔がニヤけてしまう。
 外を出歩いた事はないし、色が一緒に出るのは嫌がっているのかとも思っていたので、その誘いは翠にとって特別なものだった。

 しかし、そのためには着付けしてもらわなくてはいけないのだ。魅惑の誘いを受けながらも、悩んでしまう。
 すると、色は翠にプレゼントした袋から1つのものを取り出して、翠に手渡した。


 「長襦袢だけ自分で着ろ。それなら俺の前で裸にならなくてすむだろ。」
 「長襦袢………?」
 「それも知らないのか。浴衣の下着がこれだ。上の下着脱いで直接これを着るんだ。着方は簡単だし、ここに書いてある。玄関にいるから、さっさと着替えて呼べよ。」


 翠が何か質問する暇もなく、色は部屋から出ていってしまう。
 翠は戸惑いながらも、受け取った長襦袢を開けてみる。優しい触り心地で、透けない生地で出来ていたたので、ホッとする。

 それでも、ドア1枚を隔てた先に彼がいると思うと、裸になるのに躊躇してしまう。
 だが、翠は少し考えてだけで、すぐに服を脱いだ。夏の暑い熱を直接感じ、部屋に他の人がいるのに裸になっているのだと不思議な気持ちになる。
 下着を取った後はすぐに長襦袢を羽織った。そして、写真を見ながら、なんとか着替え終わり、部屋にある姿見鏡を見て確認をした。
 いつもと違う和装に違和感を感じてしまう。外国の血が入っている自分には、和装はやはり似合わないと翠は思った。色はあんなにも和装が似合うのに、と、隣で歩く事を今更申し訳なくなってしまう。


 「やっぱり似合わないなー。」


 そう呟き、ため息を落とした。長襦袢を脱いでしまおうかと迷っていると、「遅い!入るからな。」と、色の声が聞こえ言い終わってすぐに、彼が部屋に入ってきた。


 「冷泉様っ!!」
 「なんだ、終わってるんだな。さっさと呼べ。」
 「すみません……あの、私、変じゃないですか?和装似合わなくって……。」


 申し訳なさそうに翠が言うと、色は真顔のままで「下着姿なんだぞ、それ。」と言って、置いてある緑色の浴衣を手に取って、緑に肩にフワッとかけた。


 「俺が見立てたんだから、似合わないはずないだろ。」
 「…………ずるいです。」
 「?………何か言ったか?」
 「いえ…….。」



 彼の行動や言葉は、時々とてもずるいなと感じてしまう。恋人でもないのに、優しかったり、褒めてくれたり、勘違いをしてしまうのだ。それなのに、彼と一緒に過ごしていくことを拒まれてしまう。
 

 (どうして、優しくするんですか?)
 

 何回、この言葉を翠は思っただろうか。