それから1週間が経ったある日。
夕方の時間に、ある男性が来店した。とても目立つ格好をしているため、すぐにスタッフや他のお客様も目がいってしまう。
若い長身の男性で、ちょっと切れ目気味のすっとした瞳に整った鼻筋、そして、艶のある黒髪。モデルのような綺麗な顔だけでも注目を浴びてしまう。
だが、その男性はそれだけではなく、今時は珍しく和服を着ているのだ。淡茶色の無地の着物に焦げ茶色の男締め、そして足袋と下駄まで茶色で統一されていた。男締めに華やかな花が刺繍されており、それがとても際立っていて、おしゃれだった。
和装の男性は「one sin」の常連だった。翠も何度か遠くから拝見したことはあるが、ほとんどお会いしたことがなかった。「いらっしゃいませ。」と挨拶をしていると、先輩スタッフが急いで男性のもとへと向かった。和装の男性の担当スタッフだ。
それを見て、翠は他のお客様の対応をしようと下がろうとした。が、それは叶わなかった。
何故か和装の男声に片腕を掴まれて、強く引き寄せられたのだ。思ってもいない方向に引かれたためバランスを崩して倒れそうになった。
心の中で、「あ、倒れちゃう、、!」と思いおもわずギュッと強く目を瞑った。が、その衝撃は全くなくその代わりにとても暖かいものに包まれる感触があった。