こんな事があり、今に至るのだった。
色は「さっさと始めるぞ。」と、お茶を一口飲んだだけで、すぐに本を出して準備を始めていた。
「今日は、冷泉様から貰ったギリシャの写真集を見ながらお話したいと思います。」
翠が通勤用の鞄から写真集を取り出した。袋に入れて大切にしており、表紙を見るだけでも幸せな気持ちになる。
「……おまえ、その写真集持ち歩いてるのか?」
「はい………?仕事の休憩中とか眺めてるんです。けど、ダメでしたか?」
「いや、なんでもない………。」
驚いた顔をした後、気にした様子もなかったので翠は不思議に思いながらも、ギリシャ語で会話を始めたら。
今日はギリシャの写真を見ながら観光名所の話をしたり、料理の話をしながら日本と比べてみようと考えていた。日本料理の説明もすることがあるだろうと思ったのだ。
しかし、これがなかなか難しかったようで、日本語だけのものなのか、ギリシャ語でも同じような言葉があるのかを、確認しつつ丁寧に話をしていくうちに、あっという間に時間が経っていた。
いつもならば、仲居さんが食事の声掛けをしてくれるのだが、今日は誰もいないので、大分時間をオーバーしてしまっていた。
「お茶入れ直しますね。」
「いや、このままでいい。和菓子食べたら、夕飯食べに行くぞ。」
「あ、はい。いただきます!」
ピンク色の花の形をした和菓子を一口食べると、白餡の甘さで一気に笑顔になる。集中して頭を使い疲れていたのか、体に甘えものが与えてくれる力が溶けていくようだった。
「やっぱり和菓子大好きです。それに、懐かしい気持ちになるんです。」
「懐かしい気持ち?」
「はい。よく覚えてないんですけど、昔よく食べていたような気がするんです。それを思い出そうとすると、嬉しくなるので。もしかしたら、大好きだったのかもしれませんね。」
そう言いながら残っていた半分も口に入れる。何も覚えていないが、懐かしい味がするという感覚だけはあった。
「和菓子、か………。」
幸せそうに和菓子を食べる翠を見つめながら、色もどこか遠くを見つめるように目を細めた。
「冷泉様?どうかしましたか?」
「いや、何でもない。…その和菓子、新作だったんだ。」
「そうなんですか?!とってもおいしかったです。」
「そうか。……俺にも味見させてくれ。」
突然翠の唇を貪るようにキスをしてくる色に驚き体をビクリッと震わせてしまうが、そこからは熱に溺れるだけになってしまった。
いつもと違う部屋で、いつもと違う服装の彼。そして、口の中を味わうような深すぎるキスのせいで
、いつも以上に色に溺れてしまっていた。
「甘い、ですね。」
「おまえは甘さ控えめの方が好きなのか?」
「………とっても甘い方が好きです。」
キスをもっととせがむ、うっとりとした声に答えて、色は更に翠に深くて甘いキスを落とした。
今日は誰からも邪魔が入らない。
いつもより長い時間の戯れに、二人は酔いしれていた。