準備を整えてから裏口から店を出ると、前に車を停めていた場所に、色が立っていた。スーツ姿の彼は見慣れないため、やはりドキリとしてしまう。
「急に悪いな。………おまえ、何か食べたいものあるか?」
「あ、特には…….。あの冷泉様、私、実はお弁当を持ってきていて。」
「あぁ。そうだったのか……じゃあ、天気もいいからその辺の外で食べるか。俺も適当に何か買ってくる。」
車に乗り込もうとする色を「あのっ!」と声を掛けて引き留めると、色は不思議そうな顔で「なんだ?外は嫌だったか?」と聞いてくる。
翠は首を横に振って、持っていたバックを少し高く持ち上げて、色に見えるようにした。
「今日作りすぎてしまって……お弁当2個あるんです。もし、よかったら、冷泉様、食べてくれませんか?」
翠はおそるおそる、彼にそう提案した。
大企業の社長が、プロでもない素人のお弁当からなんて食べるのだろうか?それに、告白された女からの手作りなんて怖くて食べれないかもしれない。やはり、お弁当は隠してお店に食べに行くべきだったかもしれない。……と、一人で悩んでいる間に、色はヒョイと翠の持っていたお弁当入りのバックを持上げた。
「じぁあ、もらっとく。」
散々悩んでいた翠だったけれど、色はさっさとお弁当を受け取って歩いて行ってしまう。
大好きな人が自分の作ったお弁当を食べてくれるという、思いがけない出来事に翠はニヤけてしまう口元も隠せないまま、色の後を足早に追いかけた。
翠の職場の近くには、緑が多い比較て大きな公園があった。休日は、イベントをしていることも多かったが、今日は平日のお昼前。犬の散歩や、子ども連れ、翠達と同じように外でランチをとっている会社員などがいた。7月には入り、暑くなってきたので直接太陽の光が当たらない木陰のベンチに、ふたりは腰を下ろした。
持ってくれていたバックから弁当を広げようとしている色を、まじまじと見ながら翠は彼に声を掛けた。
「あの、冷泉様がこんなところで食事をしていてもいいんですか?」
「何でだよ……なにも問題ないだろ。俺だって、外で食べたり、コンビニのおにぎり食べたりする。」
「そうなんですか!?なんか、あまり想像つかないです。」
信じられないと言わんばかりに驚きながら見つめる翠を、色は呆れ顔で見返した。
「俺を何だと思ってんだよ。」
「いえ………。あ!それに、私となんかといて大丈夫ですか?!」
「……………俺は、別に芸能人でも有名人でもない。」
不機嫌そうに色が返事をした。翠は心の中では「有名人ですよ!」と、言い返していた。
「ぐたぐたとうるさい奴だな。勝手にしゃべってろ。俺は先に食べる。」
「あぁー!ちょっと待ってください…………!」
翠が悩んでいる間に、色はさっさと弁当を取り出して、しっかりと手を合わせてから、からあげを1つ、上品に箸で摘まんで、口に運んだ。
料理には自信があったけれど、好きな人に初めて手作り料理を食べてもらうとなると、さすがに緊張してしまう。それに、彼は日本料亭の社長だ。舌も肥えているはずだ。
じっと、彼が食べている様子を緊張しながら見つめていると、色は面白そうにそれをみて笑っていた。
「ど、どうでしたか?」
「……………。」
「え、冷泉様!?なんで、黙るんですかー?」
「……………上手いよ。おまえは、料理上手なんだな。」
ニヤリと企んだら笑みを見せながらも、翠の料理を褒め、箸を止めていつものように、優しく頭を撫でてくれた。
ほっと安心しながらも、暖かくて優しい日差しと、彼に幸せを貰いながら、翠は穏やかな昼休みを過ごしていた。
ランチを終えて、色から本題を聞くまでは………。