「……すみません…!冷泉様、今日は何かお探しですか?」
冷静さを取り戻しつつ声をかけると、色は「いや。」と返事をすると持っていた紙袋を翠に差し出した。
「こちらは………?」
「少し前に大量に取り寄せをお願いした礼だ。遅くなってしまったが受け取ってくれ。あの時は、助かった。」
「そんな!お気遣いいただき、ありがとうございます。」
翠は両手で紙袋を頂いた。受け取った瞬間、甘い香りが翠の鼻先に届いた。ハッとした表情でそれを見つめていると、「うちの料亭で出している和菓子だ。よかったら、みんなで食べてくれ。」と色は言った。
家庭教師をしている料亭で食べる夕食には、必ずデザートがあった。フルーツやシャーベットもあったが、時々和菓子も出ることがあったのだ。それをいつも「おいしいです!」と喜んで食べていたのを色は覚えていてくれたのだろう。
色のその気持ちが嬉しくて、その紙袋を大切に抱き締めるように抱え「ありがとうございます。」と彼にお礼を言った。
翠はスタッフとしての綺麗な挨拶ではなく、翠として自分らしく伝えると、それが色にもわかったのが、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
「私からも全スタッフの変わりにお礼をさせてください。お心遣いありがとうございます、冷泉様。」
岡崎も店長としての挨拶をしていた。色も、しっかりと顔をみて「あぁ。これからも、よろしくお願いします。」と返事をしていたけれど、翠はどことなく色の顔が固かったように感じた。
それが、年上の男性に対しての対応だったからなのか、他に別の理由があるのかは、翠にはわからなかった。
「実は急な話があるんだが、時間はあるか?」
「今ですか?……あと少しで休憩時間ではあるんですが、冷泉様にお待たせしてしまいます。」
「少しぐらい待てる。昼食の時間付き合ってくれないか。」
「わかりました。」
そう返事をしたが、すぐに岡崎が「今日はお客様も少ないし、一葉さんの担当の方も予約は入ってないから、先に休憩に入って構わないよ。」と、言ってくれた。翠と色は、岡崎の好意に甘えて、早めのランチをすることになった。