「一葉さんは、冷泉さんが本当に好きなんですね。」
「はい。自分でもどうしてこんなに好きになったのかわからないんですけど。でも、一緒にいて幸せな気持ちになったり、もっと側にいきたいとか、笑ってほしいとか、こっちを見てほしいとか。そう思ってしまうんです。………かなり未練がましい考えですけど。」
自分の想いをつい語ってしまい、恥ずかしくなってしまい最期に、そう言ってしまうが、岡崎は優しく笑って「そんな事はないですよ。」と言ってくれた。
「女の人にそんなに想われて嫌な気持ちになる男性はいないと思います。それに、こんなに可愛らしいあなたに言われるのですから。」
「……岡崎店長だけですよ、そんな事言ってくれるのは。」
「冷泉さんは、言ってくれないのですか?」
「あまり言葉では伝えてくれないので。」
翠は、色に嫌われているとは思ってはいなかった。そうでなければ、あんなに優しくしたり、頭を撫でたり、そしてキスしてくれたりはしないだろう。でも、「可愛い。」という、言葉は出てこなくて「綺麗だ。」と言われるのは、きっと容姿の事なのだと思っていた。岡崎も翠の容姿の事を言っているのかもしれないが、二人の褒め方はどこか違うような気がしていた。
それは、色が自分を恋愛対象として見てないからなのかもしれない。そう思うと、今更だけれど翠は悲しくなってしまう。
「私は、とても可愛いと思いますよ。翠さんの事。」
「岡崎店長……。あの、私っっ!」
そこまで言うと、その先の言葉を言うのを止めるかのように、岡崎はゆっくりと首を横に振った。
それを見つめて、翠は岡崎の言葉を待った。自分が次に何を言うのかを岡崎は理解していたのだと、翠にもわかっていた。
「私も、翠さんと同じ気持ちなんです。だから、少しだけ待っててもいいでしょうか?」
「……でも、私……。」
「それと、二人の時は名前で呼ばせてくださいね。」
「…わかりました。」
岡崎は、翠が頷くと嬉しそうに「ありがとうございます。」と微笑んだ。
岡崎に名前を呼ばれると、翠は何故かちくりと胸が痛む。その理由がやっとわかった。
(冷泉様は、私の名前を呼んでくれたことがないんだ。)
それを理解すると、今までの時間がとても薄っぺらいもののように感じてしまう。やはり彼は、だれかを重ねて翠を見ていたのだろうか?
それでもいいと思っていた。けれども、こうやって名前を呼ばれることを、恥ずかしいけど嬉しいと思える感覚を知ってしまうと、色にも呼んでもらいたい。そう強く思ってしまうのだ。
そんな切ない気持ちと、岡崎への罪悪感を感じながら、味を感じなくなったオムライスを一口、口に入れた。