尊敬できる先輩からの気持ちは、正直嬉しい。
もしかしたら、色とこのような関係にならなければ、誘いを受けていたかもしれないとも思う。
だが、今の翠には大好きで大切な彼がいる。それは変わるはずもなかった。
なので、岡崎にはやんわりと断っていたが、なかなか諦めてはくれなかった。
「これから気をつけます!!」
「初めての事なので、今回は注意だけにしておきます。」
「ありがとうございます。あと、オープン前の掃除を岡崎店長がやっていただいたと聞きました。すみませんでした。」
「あぁ……それぐらいは大丈夫ですよ。いつもやってもらってますからね。」
二人きりという状況で思わず構えてしまうけれど、今日も変わらない賑やかな微笑みなのを見て、翠は安心していた。
けれど、大人の男性は油断ならなかった。と、思い知ることになってしまう。
「では、お礼はデートにしてもらいましょう。」
「で、デートっっ!?」
思いもよらない提案に、翠は思わず大きな声を出してしまう。まだ、個室だから良かったが、他のスタッフに聞かれてしまうのではないかと、翠は焦って自分の口を手で塞いだ。
それを見て、岡崎は楽しそうに笑っている。
「岡崎店長、笑い事じゃないですよ!私、好きな人がいるってお話ししたじゃないですかっ!」
「そんなに固く考えなくていいですよ?仕事帰りに食事にいきましょう。それぐらいもダメでしょうか?」
「…………岡崎さん。」
「やはり10才も年上のおじさんはダメですかね。」
寂しそうに言う岡崎さんを見ては、断ることも出来ず、翠は「わかりました。」と返事をすることしか出来なかった。
翠は、大人の男性は怖いと最近の出来事で強く思ったのだった。