「告白されて、付き合った事も何回かあるんですけど、ファッションの一部とか、ステータスとして付き合ってる人ばかりで………。女の子も、あまり友達になってくれる子がいなくて。あ、でも大学のころは楽しかったですよ!だから、男の人はちょっも苦手な部分もあるんです。」
「………大変だったんだな。おまえの事だから、人気者なのかと思ってた。」
「そんなことないです!……あの、冷泉様は?」
「ほどほどだ。」
そっけなく返事をすると、箸を持って料理を口に入れた。きっと、聞いてほしくない事なのだろう。これで、話しはおしまいとでも言いたげな反応だったので、翠も目の前の食事をとることにした。
社長というイメージは、女の人に大人気で、いろんな人付き合ったり、愛人がいる生活をイメージしていた。色も、言い寄ってくる女性はきっと多いだろう。けれども、あんなにも大切にしている「憧れの人」がいるのだから、遊び相手や愛人はいないだろうな、と翠は思っていた。実際、彼は忙しい人だしこうやって勉強する時間も多いけれど、女の人の影は全くなかった。
翠にとって、それは嬉しいことでもあるが、やはり見たこともない色の想い人に強く嫉妬をしてしまうのだった。
食事も終わり、そろそろ帰宅しようとした時。立ち上がろうとした色の着物の袖を、翠は咄嗟に引っ張った。
「……どうした?離さないと動けないだろ。」
「冷泉様………忘れていませんか?」
翠は恥ずかしさのあまり、目が潤んでくるを我慢して、彼を見上げた。
色は、すぐに何をいっているのかを理解して、翠を見返した。
「何か言いたそうだったのはこの事か?」
「だって、冷泉様がお忘れになっているから。」
「………俺は断った男だぞ。」
「冷泉様からお金を貰うつもりはないですよ?」
翠がせがんでいる事を、色は戸惑っているようで、翠から視線を逸らしたまま止まっていた。
自分でもはしたないと思うし、恥ずかしい事をしているとわかっていた。でも、翠は止められないのだ。彼を少しでも近くで感じたい。
嫌いになられても、バカな奴だと思われてもいい。あと1ヶ月だけ、彼が与える甘い感覚を感じていたかった。
「……憧れの人がいるから、出来ないですか?」
「………くそっ、煽りやがって!」
罵倒の言葉を吐き捨て、色は乱暴に翠をかき抱くと、そのまま強く口づけをした。
少し戸惑う様子もあったが、翠が自分か唇を少し押しつけると、また激しく食らいつくように唇が奪われた。
しばらく続けると、体が支えられなくなるぐらいに、甘い熱にやられてしまう。その痺れるような感覚に浸りながら、翠は切なさを埋めていこうとしていた。
それが、もっと切なくなる行為だとわかっているのに止められないのだった。
色と目が合うと、彼も苦しそうな表情をしていた。それ以上そんな顔を見ていられなくて、目をとじてまたキスを求めた。
色に、辛い顔ばかりさせてしまう自分がとても辛くて悲しくなるのを忘れさせて欲しいと願いながら。