毎日見ている、そしてドキドキさせられる相手が、間近にいるのだ。キスが出来るぐらいの距離に。
「冷泉様の目の色、好きです。」
「俺は日本人特有の黒だ。」
日本人ならほとんどがこの色だろ、と苦笑しながら色は言ったが、翠は色の黒が好きだった。
漆黒という言葉がピッタリなほどの黒光りするほどの綺麗な真っ黒な瞳を。
「はい、真っ黒です。黒は、どんな色でも混ざり合って黒にしてくれるんですよ。喧嘩をしないで、受け止めてしまう。」
「お前も黒になるのか?」
「黒は好きです。」
「そうかよ。でも…。」
「おまえが白だったら、俺は俺じゃなくなる。」
そう言うと、グッと色が近づいたのがわかった。
次にされることがわかって、思わず目を瞑ると、柔らかい感触を感じた。色は金色の前髪を丁寧によけ、額にキスを落としたのだ。
『俺はエメラルド色が好きだよ。』
「冷泉様?」
そう言うと、仲居さんの声がドアから聞こえてきた。「入れ。」という色の声と共に、心地よく感じていた色の熱がなくなってしまう。
ギリシャ語で言われた言葉の意味が、頭に入ってきたのは、仲居さんが夕食を運んでくれている間だった。
色の言葉は、翠の瞳が好きだと言う事なのか。それとも、黒に染める事を拒否されたのか。
それを理解できるほど、翠はまだ彼を知らなかった。