「んー!おいしいです!この天ぷら。あ、炊き込みご飯もっ!」


 一時間が過ぎた頃にドアをノックする音が聞こえた。それが家庭教師の終了時間の合図だった。
 次々と料亭の食事がテーブルに並べられていき、翠は目をキラキラさせて見ていると、「腹減ってたのか?」と、色は面白いものを見るように笑っていた。


 「すごくおいしいです。冷泉様、ありがとうございます。」
 「これはおまえのお金で食べてるだぞ。」
 「いえ!冷泉様がいなかったら、こんなところで食べられませんし。お吸い物もおいしいー!」
 「おまえは、本当にうまそうに食べるな。」


 そう言いながら、隣で色も箸をすすめる。和室で着物を着て、上品に料理を食べる姿は、とても絵になっており、翠は隠れ見ながら「綺麗だな。」と、感じてしまう。


 「明日もここで食べるのか?違うところでもいいぞ?」
 「いえ!こちらにします、贅沢に!」
 「そうか。じゃあ、しゃぶしゃぶとかすき焼きにするか。」
 「はいっ!」


 勢いよく返事をすると、笑いながらまた頭を撫でてくれる。その感触と温かさを翠は、心地よく感じてしまっていた。

 少し前まで、怖いとか何を考えているかわからないとか考えていたのが嘘のように、翠は色との時間を楽しいと感じるようになっていた。