4話「熱い指先」
生徒、冷泉色への家庭教師は、彼に「やります。」と伝えた次の日からスタートした。
仕事を終えた翠は、いつもよりおしゃれをしていた。通勤するときもシャツにスカートが多かったが、今日は紺のワンピースを着ていた。化粧直しもしっかり行い、アップしていた髪もおろしてリボンがついたピンで止めてハーフアップにした。
いつもと違う様子を見て、何も知らないスタッフは「翠ちゃん、デート?」と聞いてきていたが、翠は「絶対に違います!」と、誤解されないように強く否定し続けていた。
翠がそんなおしゃれをしていたのには、理由があった。これから、色に会うからではない。
それは色と翠が交わした、家庭教師の決まりのためだった。
まずは、お金だが1日約1時間で2万、一ヶ月で40万はどうだ?、と色に言われた時はさすがの翠も唖然として言葉が出なかった。が、教員免許を持っているわけでも、塾の講師をやったことがあるわけでもない、家庭教師の新人にその金額は高額すぎるので、翠は丁重にお断りし、「5万で!それでも多いぐらいです!」と交渉したが、それは頑固な色が許してくれるはずもなく。
結局、毎日の夕食つきで月10万という契約になった。(それでも、色は納得していなかった様子だったが。)
期間は8月の終わりの約3ヶ月となった。
そして、1番の問題もあった。
それがおしゃれをしなければならない理由だった。