1話「熱い視線」


 鏡の前に立ち、一葉翠(いつは すい)は全身をくまなくチェックしていた。チェック柄のシャツには首元にリボンが着いており、それが曲がっていないか確認をする。黒のマーメイドスカートにもゴミなどが着いてないか、後ろまでしっかりと目を配る。同じ黒のタイツの破れ、靴の汚れも全く無いことを見て、翠は「よしっ。」とひとり呟く。


 黒のレースのシュシュで髪を結ぶ。金色の明るい髪は子ども頃は大嫌いだったが、今で褒められることも多くなったし、いい思い出も増えたのでそれほど嫌いではなかった。ポニーテールにすると、ウェーブが綺麗に見えるので、最近、翠のお気に入りの髪型だった。


 「一葉さん、朝礼始めるよ。」
 「はい。すぐに向かいます。」

 最後にメイクを確認し、鏡に微笑む。この表情で今日も頑張るぞ!という、翠の習慣だった。
 

 更衣室から店内に入ると、すでにほとんどのスタッフが並んでおり、翠はその端に立った。すると、奥から支店長の岡崎さんがゆっくりと出てきた。


 『おはようございます。』


 皆が挨拶をすると、優しく笑い皺を目に作りながら「おはよう。」と返事をした。
 長身細身で髪をびっしりと整えた岡崎さんは、とても紳士的な印象の持ち主だった。もう30才後半だというのに、濃いブルーとブラック、そしてグリーンが混ざったチェックのシャツに、ネクタイ、黒のジャケットとズボンがとてもよく似合ってかっこいい。