「そうと決めたら、私もギリシャ語の勉強しなきゃ!下手な物は教えられないもの。」


 翠はベットから飛び起きて、本棚にあるギリシャ語の本を持ち出して、机に向かった。祖母が亡くなった頃に何回も読んで勉強した本達だ。
 懐かしさを感じながら、翠は色に教えて恥ずかしくない言葉と文化を伝えようと、その日から勉強の日々が始まった。



 冷泉色との約束の日。

 その日は、朝からやる気になっており、他のスタッフに「どうしたの?」の驚かれるほどだった。
 色が来るのは夜だと思われるので、それまではまだ時間があるとわかっていたが、どうしても緊張してしまう。
 岡崎さんが翠の様子を見て、にこやかに微笑んだ。店長には、翠の決断を伝えていた。「やってみることにしました。でも、仕事には迷惑のかからないようにしますので。」そう伝えると、「それは良かったです。ぜひ、頑張ってくださいね。」と、言ってくれたのだ。

 岡崎さんは、応援してくれる。信頼している上司に言われると、さらに頑張ろうと思えてくるのだ。




 それから、朝礼で色の担当が翠に変わったと岡崎さんから全スタッフに通達をされた。事情を聞いていないスタッフは多少は驚いたが、稀にある事なのでそこまで気にはしていないようだった。それに前に担当していた先輩スタッフには、翠から話をしてあった。色とは昔の知り合いだった、という事にしておいたのだ。




 そして、オープンの時間。
 朝一番のお客様は、冷泉色だった。