3話「先生と生徒」



 色から取り引きの話をされた日。
 店長の岡崎さんには、迷惑を掛けてしまった事もあり、事情を話した。

 岡崎さんも驚いていたようだったけれど、「冷泉さんは悪い人ではないよ。」と優しい声で話をしてくれた。悪い話ではないし、助けてあげるつもりで手伝ってあげてもいいのではないか?でも、プライベートな事だから断るときは、一緒に御断りしてあげるよ。と言ってくれた。
 上司のアドバイスと優しさに感謝しながらも「自分で頑張ります!」と伝え、1週間悩む事にした。


 ギリシャに本店がある「one sin」を仕事場に選んだのは偶然でもあったが、見つけたときは「いつかギリシャ本店に行ってみたい。」と、研修などで行けるかな、と考えた事もあった。
 だが、なかなか研修でギリシャを行くことはないと知り、翠はがっかりしたのを覚えている。


 貯金をしっかりしているので、いつでも行くことは出来るのだが、長期間の休みがとれなかったり、一人で海外に行く勇気がなかったのが本音だ。
 そこまで、本気ではないと思われてしまうのかもしれないが、大好きだったおばあちゃんが暮らした街を見てみたい。魔法のような綺麗な言葉があふれる国へ行ってみたい、という願いはずっとある。


 そのチャンスが目の前にあるのに、それさえも手を伸ばすのに躊躇してしまっている自分がいる。

 まだ、会ったばかりの人だから?俺様な性格で少し怖いから?それとも、自分のギリシャ語が通じるかが怖いから?
 自分の気持ちと向き合うってみると、どれも本音だと気づいた。