「私にそんな大役は無理です。独学のギリシャ語なのですから。」
「俺はそれが綺麗で惚れたんだ。おまえがいい。」
自分の言葉に言われているのに、翠は自分自身に言われているように思えて、ドキドキしてしまう。だが、相手にバレてしまってはまた笑われると、必死に気持ちを押さえ込んでいた。
「しっかりお金は払う。それに、無事にギリシャに出店が決まったら、店に招待しよう。」
「ギリシャですか?!」
「そうだ。もちろん、全て俺が手配するからお前は手ぶらで行っても構わないぞ。」
パスポートだけは準備しておけよ、と笑いながら色は言った。
これだけ話を聞けば、翠にとってはかなりの好待遇だろう。心が揺らいでしまう。
だが、色に教えることを考えると、どうしても躊躇してしまうのだ。大企業の社長で、しかも傲慢な俺様な性格だ。こんな人の先生になれるのだろうか。
すぐに返事が出来ずにいる翠を見て、色は笑いながら手を伸ばして、翠の頭をポンポンと叩いた。
「悩むって事は、少しは揺らいだんだな。また、1週間後に来るから、その時に返事を聞かせてくれ。」
「え、、、。」
「断られても、俺は諦めない。」
そんな強い言葉を残して、和装の社長は颯爽と店を後にしたのだった。本当ならば、出口まで見送らなければいけなかったが、翠は頭の中がパンクしそうになり、ソファにうずくまったまま、しばらく動けなかった。