打ち合わせの場所から少し離れたところに、ここではなかなか見られない着物を着た男性か立ってちるのを見つけるまでは。
周りの人々も、物珍しそうにすれ違いながらチラチラと見ている。
最後に会ったのは2週間前だろうか。ずっと会いたかった人がすぐ近くにおり、驚きながらもすぐに駆け寄った。
「冷泉様っっ!」
「翠……お疲れ。」
「空港に迎えに行こうと思ってたんですよ。」
「少し早く着いたんだ。乗り換えがスムーズで。………少し頑張り過ぎなんじゃないか?顔が疲れてるぞ。」
色は嬉しそうに翠を見つめながらも、心配そうに翠の顔を撫でた。
1ヶ月前、一緒にギリシャの現地入りをした色だったが、彼は忙しい人でずっとギリシャに居る事は出来ない。そのため、店がオープンするまでは、日本とギリシャを行ったり来たりする事になる。
きっと、疲れているのは色の方だと翠はわかっていた。
「大丈夫です!冷泉様に会えたので、すぐ元気になりましたよ。」
「俺もだ。」
翠と色は、ゆっくりと顔を寄せて、小さく挨拶のようなキスをした。周りの外国の人々は挨拶に見えているかもしれない。けれど、ふたりにとっては、久しぶりの恋人との愛を求め合うキスだった。
「………外だと、やはり恥ずかしいですね。」
「ここは外国なんだ、気にするな。……さて、行くか。」
「夕食ですか?」
「いや、サントリーニ島のホテルだ。」
「えっ!?サントリーニ、ですか……?」
サントリーニ島は、白の建物が並ぶ綺麗な島で、海の青との白の建物のコントラストが絶景だと、日本でも有名な観光スポットだった。
翠もギリシャに来たならば行ってみたいと思っていた場所だったので、とても嬉しい。
「飛行機で30分ほどなので、明日には帰ってくるのですよね?」
「………わざわざあそこに行ってそんな訳ないだろ。3日休みにしといたから、あそこでゆっくりしろ。」
「えぇっ!……冷泉様は突然すぎます。」
「嫌だったか?」
色は、ニヤリとした顔でそう言った。
彼はきっと翠の気持ちをもうわかっている。意地悪で聞いているとわかっているのに、彼には逆らえない。そんな彼が好きな自分が負けていると、翠は思っていた。
「冷泉様とサントリーニに行けるなんて、幸せです。」
「……俺もだ。十分に甘えさせてやるよ。」
そう言うと、また彼は翠にキスを落とした。
それは挨拶とは言えない、濃厚な口づけだった。
「……好きだよ、翠。会いたかったんだ、ずっと。」
「私も寂しかったです、冷泉様。」
「今日からまた、お前を独占してやるからな。」
濃い蒼の浴衣を着た、俺様な翠の恋人は、微笑みながらそう言うと、翠の手を取った。
翠は彼の熱と香りを感じながら、彼の隣を一緒に歩いていく。
今も、これからも…………ずっと。
(完)