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「えっと、全く覚えてないんですけど…………ごめんなさい。とっさに嘘ついちゃったみたいで。きっとお婆ちゃんとギリシャ語でしか話さないゲームをしてたので、日本語をしゃべらなかったんだと思います。」
「今思えば、俺が言った言葉を理解出来るのに、話せないなんておかしな話なんだけどな。」
「小さい頃ですし、そういうのはわからないですよ。それに……。」
翠は自分が色の事を覚えてない事が、とても悲しかったのだ。
どうして忘れてしまったのか。色が言っていた、思い出したくない事とはなんだろうか。
少し怖き気持ちもあったけれど、今は、色と一緒にいられているのだ。
そう思うだけで勇気が出てくるようだった。
「翠………大丈夫か?」
しばらく考え込んでしまったのだろう。色が心配そうに翠の顔を覗き混んでいた。
翠は愛しい人が安心できるように微笑み掛けた。
「私は大丈夫です。冷泉様がいてくれるので。」
そう言うと、色はホッとした表情を見せた後に、話を進めた。
優しく話す色の声が、少しずつ強ばっていくのを、翠は感じ取っていた。
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それからと言うもの、平日は毎日のように古びた神社で遊ぶようになった。縄跳びや鬼ごっこ、キャッチボール、絵本を読んだり、絵を描いたりもした。言葉は一方通行で、会話は成り立ってなかったかもしれないが、表情や身ぶり手振りで十分楽しかった。
色がエメルと会うときは、おやつに貰うと和菓子を持って行った。エメルは、その和菓子がお気に入りのようで、いつも幸せそうにゆっくりと味わって食べていた。色の分もあげると『いいの?』と遠慮しながらも誘惑には勝てないようで、いつも2つをペロリと食べていた。
そんな穏やかな日々が半年続いた。
色は、この時間が何より大切であったし、無邪気に笑うとエメルは妹のようでもあり、初めて恋をしていたようでもあった。
けれど、そんな日々は長くは続かなかった。
ある日、2人は大きな事件に巻き込まれ、そして会うことが出来なくなってしまったのだった。
色は、その日の事を今でも鮮明に覚えていた。
決して、忘れないように。