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 色は、幼い頃は京都の実家で過ごしていた。
 冷泉家の料亭は、この実家から始まっていた。そこで英才教育を物心がつく頃にはもう行っており、友達と遊んだり、寄り道をしたりして遊んだ記憶はほとんどなかった。

 ただ、習い物と習い物の間の空いた時間だけが、色の自由にできる時間だった。
 色はそれをいつも、田舎道の途中にある小さなな神社で過ごしていた。

 そんなある日の秋だった。
 いつものように、石の階段を登っていくと、いつも誰にも会ったことがないのに、誰かがいるのに気づいた。拝殿の入り口に、誰かが猫のように丸くなっているのだ。

 色は誰かが倒れていると思い、焦って近寄った。すると、小学生に上がったばかりぐらいの、自分より小さな少女が、すぅすぅと寝息をたてて昼寝をしていたのだ。そして、その少女は、少し容姿が変わっていた。長い金色の髪で、肌も透き通るように白かった。色はその子を見つめながら、神社にも天使がいるのだろうか、と本気で思ってしまった。


 しばらく眺めていると、少女が身動きして、ゆっくりと目を覚ました。すると、その瞳は綺麗な緑色をしており、宝石のように輝いてみえた。

 女の子は、緑をみて少し驚いたが、同じぐらいの年だとわかると、じっと見つめてきた。


 「おまえ、何やってんだよ。こんな所で寝てると風邪ひくぞ。……でも、天使は風邪ひかないのか……。」
 『私、天使じゃないよ。小学2年生だよ。』


 少女は、色の知らない言葉をしゃべり始めたら。色はすでに、英語や韓国語を習っていたがそ言葉はどちらとも違っていた。
 魔法のような言葉を話す少女に色は少し戸惑った。


 「俺は冷泉色。お前は?」
 『…………エメル。』
 

 名前を聞き、色はすぐに「外国人か。」とわかった。髪や瞳の色、そして話す言葉が違い、名前も今まで聞いたことがないのだ。それしか考えられなかった。


 「エメルって言うのか?」


 そう問い掛けると、その少女は小さく頷いた。そして、少しだけビクビクとしていたので、安心させたいと思った。何故同じぐらいの年の男に、そんなに怖がるのかわからなかったが、色はこの少女と仲良くなりたいと思ったのだ。

 もしかしたら、友達とも遊ばずにこんな場所で、寂しく一人で過ごしている少女が、自分と似ていると思ったのかもしれない。

 天使でも年下の女の子でも色はよかった。色は友達が欲しかったのだ。きっと、彼女なら自分と仲良くしてくれると、直感で感じていた。
 色が彼女に向けて、手を伸ばす。
 すると、キョトンとした顔をした。


 「なんだよ。俺と遊ばないのか?」


 そう聞くと、すぐに少女は満面の笑みを浮かべた。その無邪気でキラキラとした笑顔を見た瞬間、色は胸がドキッと鳴った。初めての感覚だった。

 その気持ちに戸惑いながらも、エメルの手をギュッの握り返したのだった。