恋愛の仕方おしえます。


私が生まれたのは、しがない小さな田舎町。

周りは田んぼに畑だらけ。

コンビニやスーパーまでは車で約20分。

喧騒とは無縁だけど、

虫やら蛙やらとは大いなる縁を結んできた。

…って、そんな縁はもう懲り懲りなのだけど。

とにかく20歳まではそんな、

平穏な、

平穏で、平穏すぎる暮らしをしてきたのだ。

それが、20歳を過ぎてあろうことか

「東京へ行きたい!!」

などと思ってしまってから私の人生は変わってしまった。


もしもタイムスリップできるのであれば

私はあの時の自分に喝を入れたい。

『お前の土俵は都会にはないのだ、
この田舎町なのだぞ!』と…---。

*・*・*・*・*・*

FIRST☆STORY

〜オトコノコ、コワイ〜



*・*・*・*・*・*

20歳になって、
それまで必死に貯めていたお金を持って
上京して、ついに都会へ降りたった。

のは良いものの、
頼れる友達もなく、
見知らぬ人達しかいないこの土地で、
一人暮らしを始める事に不安しか抱けなかった。


…いや、あった!
最初は期待や希望もあったのだけど、
そんなのはすぐに打ち砕かれたのだ。

20年間生きていた私は
自分の事をなんでも知っているつもりでいた。
でもそれが間違いだった。


上京して就職が決まってから
気づいてしまったんだ。


自分は"男性恐怖症"であるということに!!


片道30分の電車通勤は
必ず決まって満員電車。

行きも帰りもスーツ姿の私に
ワラワラと伸びてくる痴漢の手。


思い返すだけでゾッとする。


「お姉さん、大丈夫ですか?顔色悪いですけど。
次の駅で降りた方がいいですよ。」

そう言って私を痴漢の手から助けてくれた中学生の男の子。

2人で駅のホームに逃げて、
「助かったよ。ありがとう。」
という私に、

「おっぱい、つーん!」

なぜか指で乳をツンツンされた。
そして逃げられた。


それから私は思ってしまったのだ。


へ……?

オトコノコ、コワイ…!


---トカイ、キョワイ!---


と。


それから確実に
私の人生は堕落へと向かっていった。

男性の顔を直視するのが怖いので
視力2.0なのに
分厚いダテ眼鏡をかけた。

なるべく自分の気配を消して
同僚とは程よい距離を取ることに成功。
上手くやれてこれたのだが、

取引先相手が男性だと
どうにも緊張してうまく喋れないし、
つい、たじろいでしまう。

これでは仕事にならないからと、
デスクワークに移動され

仕事終わりに上司から誘われても…、

「さー、仕事終わりだ!忘年会行くぞ〜!」

「あ、すみません。
用事がありますのでお先に失礼します。」

この通り、一目散に帰宅した。



ついたあだ名は釣れないダメガネ。


6年間、裏でそう呼ばれてきた。

フッ、
ダメガネで何が悪い。

家に帰れば可愛いダーリンに癒される日々。

「ダーリン、ただいま♪」

あ、ダーリンとは飼い猫のことだ。


たぶん、この先
そんな風に誰かを呼ぶ事はないので
支障はないと思い、そう名付けた。

「ミャ〜。」

ダーリンはいつも
私の寂しさを埋めてくれる
大事な家族。


ああ、それにしても…
思い返せば、
平穏な田舎暮らしは
幸せだった。


そもそも人口が少ないから
みんな家族のように仲が良かったし、
男の子も硬派で真面目な
丸刈り少年しかいなかった。


私の青春時代といえば、
泥だらけの農作業ばかりで
当時は心底いやだったけれど、
今思えばそんな記憶だって懐かしく愛おしい…。

---そして、人生最大の転機が訪れた。


社食を食べ終えて、エレベーターの中。


「聞いた〜?桐山社長、LAから帰国したって!」

「うんうん!今朝ロビーで一瞬だけ見たよ。
女社員達が大騒ぎだった。」



桐山社長…


確か三ヶ月間海外に出張と聞いていたけど、
もう帰ってきたのか。


生憎、私は一度も出くわした事がないのだが、
女性社員の間では
桐山流行の噂話で持ちきりだ。

イケメンで長身で高学歴。
おまけに社長ときたもんだから
そりゃぁ、もう女がほっとくわけがない、
らしい…。

でも彼に至っては
そんな程のいい噂ばかりではない。
やれ毎晩女を取っ替え引っ換えしてるだの、
性格に難があるだの、
実は結婚していて隠し子までいる、だの。


嘘か本当か、
みんな面白楽しく盛り上がっている。

って、私の知ったこっちゃないが。

「お疲れ様でした〜。」

きっちり定時に仕事を終えて
誰よりも早くエレベーターに乗り込もうとした
その時だった…。

ウィーン…---。

上から降りてきたエレベーターには
既に乗っている人が1人。

長身で、
サラッとした黒髪に、
切れ長の目の
若い男性…

---キリヤマナガレ社長だ。

堂々としたその出で立ちに
名前を聞かずとも直感してしまった。

彼はスマートフォンで
誰かと電話しているようだったが
目線だけをこちらに向けてくる。


私は咄嗟に、目が合わないよう、
後ろを向いてエレベーターが閉まるのを
やり過ごすことに決めた。


ドサ…ッ---!


「なっ…!」


なんと!
なぜか私は、
社長に乱雑に腕を引き寄せられて
エレベーター内で尻餅をつかされたのだった。