■かいとの病室

優は、仕事の合間にかいとの病室を訪れていた。
病室にある花の水を変えたり、かいとの手を握ったりしながら、かいとが目覚めるのを待っていた。
兄として、医者としてかいとに伝えることがあるからだ。
いつものように花の水を変えようとしたとき、小さな声が聞こえた。

かいと「…………兄さん」

かいとが目覚めたのだ。
兄をみて安心したのか、かいとは少し微笑んだ。

優「かいと……」

優は、かいとに話そうと思ったが悩んでしまいなかなか言葉がでなかった。
そんなとき、かいとがこのようなことをいった。

かいと「………余命……」

かいとは自分の余命を知りたいのであろうと思い、優は素直に答えた。

優「ドナーがみつからないと3カ月あるかないか」

かいと「そう」

優「必ず、ドナーみつけるから」

そのように、いう優に対してかいとは複雑な気持ちであった。
ドナーがみつかれば自分は生きれる、しかしそれは同時に他の人の人生を……このようなことを考えていた。

かいと「……ありがとう兄さん」

優「おう」

優は、かいとの様子を報告するために麻友子の元に向かった。

かいとは、病室の天井を眺めながらうっすらと涙を流した。

■絵莉の病室

裕子に絵の具とキャンバスを買ってきてもらった絵莉は、鉛筆で絵の下書きを描いていた。
その様子を麻友子と裕子がみていた。

麻友子「本当に上手だね」

裕子「絵莉の絵好きだわ」

真剣な様子で絵莉が下書きを描いていると優がやってきた。

優「麻友子」

麻友子「患者さんのカルテならデスクの引き出しに、タブレットはデスクの上」

麻友子が優のデスクを掃除をするたびに優は麻友子に聞いてくるため、いつものように麻友子は答えた。

優「かいとが目覚めた」

予想外の発言に麻友子は驚いた。

絵莉「本当ですか?」

もちろん、その場にいた絵莉も驚いた。

優は嬉しそうに、麻友子達に話した。

そして、絵莉は急いで下書きを書き終えた。

絵莉「優さん、かいと君の病室を訪れていいですか?」

絵莉は、優に聞いた。
優が答えると絵莉は、急いで病室に向かった。

裕子「お似合いですね」

裕子は、かいとに恋をしている絵莉を嬉しく思って、優と麻友子にいった。

優「さっさと付き合えばいいのにな」

麻友子「流れがあるからいいじゃない」

三人はかいとと絵莉の行き先を楽しみに待つのであった。

■かいとの病室

かいとは、白い天井を眺めていた。
この先自分はどうなるのであろうか、医者になるのは無理なのではと思ってしまった。

絵莉「かいと君?」

かいと「絵莉?」

パジャマ姿の絵莉をみて、かいとは等々絵莉の治療が本格的に始まるんだなと思った。

かいと「治療いつから?」

絵莉「一週間後から始まる」

かいと「不安じゃない?」

絵莉「……不安だよ」

絵莉はいつも明るいので、不安なんかないだろうと思っていたかいとは驚いた。

絵莉は、治療が上手くいかなかったときを考えると不安に、ときには病気にならなければ、普通に大学生活を送れるのにと思うことがあるという。

かいと「俺も不安」

ドナーがみつかなければ余命3カ月、しかしみつかっても他の人の人生を犠牲にしていることになる。
移植に対する不安を絵莉に話した。

しばらく沈黙が続いたあと、絵莉が話した。

絵莉「まあ、そんなときは先のことなんて考えないようにしてる、自分にできることはなにかとか……」

先のことなんて、誰もわからない。
大事なのは、今だと。

絵莉「私は、治療を頑張ること、かいと君は病気を治して医者になること、移植で他の人とか……たしかにそうかもしれない、でも思うんだよね」

かいと「何を?」

絵莉「その人の心臓はかいと君の中で生き続ける、第二の人生の幕開けだって」

かいと「絵莉……」

絵莉「名言でしょ?」

かいと「自分でいうんだ」

少し、かいとは笑ってしまった。

絵莉「やっと笑ったね、かいと君の好きな色って何?」

絵莉は、絵画の色付けをするために聞いた、かいとは少し疑問に思ったこの質問に答えた。

かいと「紺かな」

絵莉「わかった」

優「青色じゃなかったのか?」

麻友子「黄緑でしょ?」

裕子「緑色のイメージだったわ」

優たちもかいとの病室を訪れた。

かいと「いいじゃん紺がすきなんだから」

優「紺だけじゃないだろ」

絵莉ちゃんも好きなんだろというとき、優は麻友子に足を踏まれた。

麻友子「優がいうことじゃないから」

麻友子が小さな声でつぶやいた。

優「うん」

余計なことはいわないでおこう、そう誓った優であった。