〝クリスマスには奇跡がおきるんだよ〟
昨日、店長が話してたのは、きっと店長の大切な人のことなんだろうな。
『彼女』って言ってたから、多分、女性。
失踪した…って、なんでもないことかのように言ってたけど、きっと本当は、心に大きな大きな穴が空いたみたいな、喪失感とか寂しさがあるんだろうな。
――店長にも、奇跡がおこりますように。
「――菜帆?」
「はいっ!」
「どしたの?ボーッとして。…そんなにバイト行きたかった?」
心配そうに聞いてきた拓海さんは、段々と拗ねたようになっていた。
「いえ、その逆です。こんなに寒いから、外出なくてよくなって、安心したというか…」
「そっか。じゃあ、俺とおうちデートでもする?外綺麗だけど」
「家の中でのんびりしたいです」
「じゃあ、そうしよう。映画のDVDとかあるから、一緒に観よう」
映画とか、観たことないな。存在は知ってたけど。
何だかワクワクしてる。
「菜帆、これとこれ、どっちがいい?」
拓海さんが持ってきたのは、アクション映画と、恋愛映画。
…アクションものはわかるけど、恋愛ものがあるのは珍しいんじゃないかな。男の人の一人暮らしだったはずなのに。
「…恋愛映画も、姉貴が置いてったやつ」
「…なるほど」
前にも言ってたけど、どんなお姉さんなんだろう。
…拓海さんに、こんなげっそりした顔させるなんて。相当キャラ濃いんだろうなぁ。