「菜帆…落ち込んでる？」
「…はい。すみません……」
「いや、嬉しくて」
「え？」
…人が落ち込んでいるのが、そんなに嬉しいものなのか。違うよね。
わかりやすく、拓海さんの頬が緩んでる。
「いつも、好きなのは俺ばっかりだって思ってたから、」
「そんなわけないじゃないですか！」
おおっと…。
思ったよりも大きな声が出ちゃったから、拓海さんもびっくりしてるけど、多分私が一番びっくりしてるだろう。
「うん。そんな風に言ってもらえて嬉しい。だけど、やっぱり嫉妬してもらえるのは嬉しい。菜帆からの愛を感じられて」
「…そうですか」
でも、こんな風にモヤモヤしてる自分がヤダ。
何だか、ワガママになったみたいで。
あの人懐っこい笑顔を、他の女の人たちにも向けてるんだと思うと、「やめて」って思っちゃう。
…そういうお仕事なのに。
「菜帆、俺だっていつも、気が気じゃないよ？」
「え？」
「菜帆とは昼間会えないし。朝のちょっとしたこの時間と、帰ってからの数時間。トータル時間は、ここで寝てるから一緒にいる方が長いけど、起きてる時の時間は、昼間の方が長いから。妬く」
…どうしよう。
拓海さんがたったそれだけ言ってくれただけなのに、私、すごく舞い上がってる。嬉しい。
拓海さんが嬉しくなったのも、きっとこんな感じなのかな。
「…同い年だったらよかったのに」
ポツリと、私の口からそう漏れた。
同い年じゃなくても、拓海さんが、あと一個年下だったら。
私が、あと一年早く生まれてたら。
そしたら、一年だけでも同じ、高校生でいられたのに。
