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「ただいま…です」
そう言って部屋に入ると、拓海さんは無言のまま電気をつける。
パチンという音が、静かな部屋に響いた。
「あの、拓海さん…?」
心配になって拓海さんに声をかけると、またもや抱きしめられる。
あまりにも急だったので、私はちょっとしたパニック状態になる。
「え、あの、拓海さん…?…その…ここ、玄関ですよ…?」
そう。ここは玄関。
お互い、靴も履いたまま。
「じゃあ、玄関じゃなければいいの?」
「ふぇ!?」
びっくりして、おかしな声が出る。
「なら早く靴脱いで」
「え、その…」
どうしよう、なんて答えよう。
「…なんて、冗談だよ」
「…え?」
なんで…。
あれ、『なんで』…?
ここは本当は、『よかった』って、安心するところなはずなのに。
なんで、こんなにも寂しいんだろう。
「…菜帆?」
「冗談じゃ、嫌です…」
私の前を行く拓海さんの洋服の裾を掴んで、私の口からはそんな言葉が出た。
やっとの思いで絞り出した声は、思っていたよりも小さかった。
「…寂しい、です…。…そんなこと、言わないでください…」
このままこの裾を離したら、拓海さんが遠くに行ってしまう気がした。
…そんなの、絶対にヤダ。遠くになんか、行かないで……。
拓海さんと、離れたくない…。