そして、いつもなら(と言っても、昨日からの付き合いだけど)隣にいると話しかけてくれるのに、この時ばかりは終始無言で、テキパキとコーヒーを淹れていた。恐るべし、拓海さんのコーヒー愛。
…あ、4分経った。
カップ麵、そろそろできてる頃だよね!
私はそう思い、しばらく放置していたカップ麵の蓋に手をかける。
半分だけ開けていた蓋を勢いよく全部開けて、麵のほぐれ具合をお箸でつついて確認する。…うん、完璧。
そしたらここに、液体スープを入れて、よく混ぜて……。
あぁ、空腹時の食欲をさらに煽るような、おいしそうな匂い。…って、食レポ小説じゃないんだけど……と自分で自分に心の中でツッコミを入れておく。
目の前にあるのは、一番好きな、王道の醬油ラーメン。…でも、足りない。
「拓海さん、海苔ってありますか?」
「あるけど…」
「使っていいですか!?」
「もちろん」
はい、と渡された海苔を、ラーメンの上にのせる。…うん、これだよ、これ。
このメーカーの醬油ラーメン、海苔なかったんだっけ。まぁいいや。
「菜帆、準備できた?向こうで一緒に食べよう」
そう言って、拓海さんがどこからか取り出したのは、昨日買っていたおにぎり三つ。それを片手で持っていて、もう片方の手には、さっき淹れたばかりのコーヒーが入ったコップ。
「まさか、食べないで待っててくれたんですか?」
「だって、ご飯は誰かと食べた方がおいしいでしょ?」
その時私は、あのボロアパートで、一人でちまちまご飯を食べていたことを思い出した。
それから、目の前に立って微笑んでいる拓海さんに目を向ける。
「…そうですね」
私がそう言うと、拓海さんは満足気に、あの可愛い笑顔で笑った。
さっきと同じくドキッという音をたてたのと同時に、胸の奥の方がほんわかと温かくなった。