「…じゃあ菜帆、明日は家に帰ろっか。で、俺、明日仕事休むことにしたから、菜帆も一日、学校休んだら?」
「…はい、そうします」
色んなことがいっぺんにあったから、頭がどうしても落ち着かない。…もちろん、心もザワザワしてる。
だから、拓海さんの心遣いがありがたく思った。
ただでさえ、あんなことがあっただけでも、ものすごく動揺していたのだから。
会うなんてしてしまったら、どうなるのかわからないし、もしかしたらふさぎ込んでしまったとしてもおかしくない。
……ある程度、心の準備が必要だと思う。
お母さんが何を言ってくるのかなんて見当もつかないけど、でも…怖いから。
もしかしたら、本当に確率は低いと思うけど、いいこと…かもしれないし。
「菜帆、じゃあ、帰ろう。俺たちの家に」
「…はい…!」
差し出された手を取り、ギュッと握ると、拓海さんの体温を感じた。
…やっぱり照れくさい。
「瞳さん、それにお父さんもお母さんも、ありがとうございました」
「菜帆ちゃん、何もなくても来ていいからね!むしろ、何もなくても来てね!」
「…はい、またお邪魔させてもらいます…!」
見送ろうとしてくれるみんなに手を振っていると、身体がぬくもりに包まれる。
なにが起こったんだろう…と思う間もなく、今度はフッと耳に風がかかる。
「…菜帆、俺にももっと構ってよ。あの人らばっかズルい」
拓海さんの拗ねたような声が至近距離で聞こえる。
ドキドキがキャパオーバーだ。
「ふふっ。菜帆ちゃん、顔赤い。拓海もこんなとこで見せつけるとか、本当に笑えるんだけど。私らにまで嫉妬するとか、余裕なさすぎ」
「うるさい。余裕なんて元からないよ。だけど嫉妬とかじゃなくて、ただただ菜帆が好きなだけ」
…顔から火が出る…とは、まさにこういう時に使う言葉だと思う。
いつになっても慣れない。
そしてそのまま、みんなに挨拶する前に、拓海さんに手を引かれて玄関を後にした。