「 中村くんから 、 奪うよ 」
そんなこと思ってないくせに 。
彼女さんがいるくせに 。
わたしの口が開く前に唇を塞がれる 。
「 んッ 」
川瀬くんの両手がわたしの顔を固定する 。
後ろも横にも壁だし 、 前には川瀬くんが居て逃げられない 。
え ?
よくわかんないよ 、 説明して ?
なんで彼女さんじゃなくてわたしにキスするの ?
え ?
息が苦しいよ 、
「 ッふ 、 、」
「 んッ 、 、 、 んんッ 、 、 」
わたしが漏らす声と川瀬くんとわたしの唇が
強引に重なる音が誰もいない昇降口に響く 。
川瀬くんは頭の角度を変えて
わたしの唇を喰らい尽くす 。
わたしの口の中に入っている川瀬くんの舌も
今はどうすることもできない 。
わたしは強い力で川瀬くんの胸を押す 。
「 、 、ごめんッ 、 、」
言葉がそれしか出てこなかった 。
わたしは落とした鞄を持って逃げるように走った 。
あれから一体どれくらい川瀬くんとの距離はひらいてしまったんだろう 。
放課後の仕事ももうすぐ夏休みだからって事にして無しにしてもらった 。
夏休みが始まってもずっとあの事が気になってた 。
嬉しさと罪悪感が混ざって 、 濁ってる 。
何か言わないとこの混沌とした関係はどうにかならないけど 、
どうにかなってももう前の好意を隠した
“ クラスメイト “ には戻らない 。
夏休み何もできずに始業式の日が来た 。
「 蜜 ? ? 大丈夫 、 、 ? 」
アカリの声でハッとした 。
ぼ〜っとしてたらもう帰る時間になってた 。
ずっと川瀬くんを避け続けても何もない 。
そんなのわかってるけど …
こんなこと考えてしまうのは末期だと思うけど 、
せめて彼女さんと別れるまでは 何もなかったフリをしなきゃいけないんだよ 。
きっと 。
そのままアカリと帰ろうとした時 、
「 江坂さんとちょっと話したいんだけどいいかな 」
川瀬くんがアカリに言った 。
『 わかった 、 ! じゃあ蜜 、 先に帰るね ! 』 ってアカリは快諾してしまった 。
『 え 』 としか言えずにわたしは自分の席にもう一度座る 。
次々教室から人が出て行く中 、
わたしと川瀬くんは座ったまま 。
そしてわたしと川瀬くん 2人きり 。
それでもずっと黙ってる 。
居ても立っても居られなくなって帰ろうと立ち上がった時 、
「 蜜 」
川瀬くんがわたしを呼んだ 。
川瀬くんが見上げてる視線の先はわたしだってわかってる 。
川瀬くんの瞳孔がわたしを捉えて離さないことも 。
でもわたしは川瀬くんを見ることができないの 。
「 なに 」
わたしは冷静なフリをして川瀬くんを見下ろす 。
わたしは被害者だもん 。
…… わたしにも非があるけど 。
でもキスされるなんて聞いてなかったもん 。
何も緊張することない 。
教室に彼女さんがいるのにキスしてきた男の子と2人っきりなんてよくあることでしょ 。
だからドキドキしないでよ心臓 … ! !