元気なその後ろ姿を見つめながらいると、タイラックさんが近寄ってきて耳打ちしてきた。
「今年は確かスーザンだったよな?」
今年はというその単語に、私は一つ頷いた。
タイラックさんが言っているのは、町外れの森にある一件のお屋敷にお菓子を届ける、という事。
毎年町の18歳になった成人したての者に、その仕事が任されていて、今年18歳になったのはこの私しかいない。
一応町の住人として扱われているのだが、まったくその姿を目撃した人がいない。
どんな人が暮らしているのかさえもわからないが、町の住人として同じ行事を楽しむという町長の気持ちから始まったものだった。
「去年は向かいの家のトムが行ったみたいだけど、朝まで帰って来なかった上に、その夜の記憶がないって言ってたけど……何をしてたんでしょう?」
「成人の証にお酒でも注がれて記憶がないんだろう。毎年同じように帰ってくるんだ」
それは初耳だ。
真面目なトムでさえもそんなことになるなんて、意外すぎる。
勧められてもちゃんと断らなきゃと決意して、タイラックさんにもクッキーを渡す。