ようやくビンゴの時間が終わり、最後の自由時間がやって来た。

 私はお酒を飲み過ぎたせいでお手洗いに行きたくなり、誰とも話さずに早々に席を立った。水を何杯か飲んだとはいえ、いつもよりも明らかにお酒を飲み過ぎたせいで、この間よりも足元がおぼつかない。

 ふらふらとトイレがある廊下へと向かうと、いきなり後ろから強い力で腕を掴まれた。

「梓」

 振り返ると、環が立っていた。驚きのあまり腰を抜かしそうになると、環が体全体を支えるように改めて立たせてくれた。

「た、環」
「お前、飲み過ぎだ」
 環はそう言って、眉間に皺を寄せた。

 そんなこと言われたって、誰のせいでこんなことになったと思ってるの? 私はふいと顔を逸らした。

「だって、誰かさんが変なこと言うから。二週間仕事以外で何も話さなかったのに、あの場でいきなりあんな風に言うし、動揺しない訳無いでしょ」
 と呟いた。すると環は腕を掴んだまま、
「……。悪い」
 と言って私の体を引き寄せた。

 トイレの廊下は会場から直接見えないとは言え、いつ誰が来るかも分からない。
「環」
 私は体を離そうとしたけれど、環は力を強めるばかりで私を離そうとしなかった。

「もっと早く梓に伝えるべきだったのに、タイミングを逃して、今日まで来て後悔してる」
 環の手が私の髪を撫でた。大きくて温かな手だった。

「俺の気持ちは二週間前も今日も、そのずっと前から変わらない」

「……っ」

「今は片思いでも構わない。お前が振り向いてくれるまで、待つから」

 真剣な口調でそう言って、環は私を抱き締める。抱き締められ慣れていない私の体はビクリと跳ねて、たちまち熱くなっていく。

 ……そんな風に言われたら、もうあの頃のような「幼なじみ」として見られなくなっちゃうよ。