「ありがとう」
「お酒、飲み過ぎちゃいました?」
「ちょっとね」
「正直、クールな倉持さんが質問に答えてくれるか心配だったんですけど、答えてくださって良かったです。趣味とか好きな物とか、色々知れて良かったな」

 水を飲んでもまだ頭の中はぐわんぐわんとする。満足げに微笑む桃子ちゃんの言葉も、なんだか遠くで響くような聞こえ方だ。

「でも好きな人が居るのは残念でした。幼なじみが好き、なんて言うときの倉持さんの真面目な表情と言ったら……あーあ、私が幼なじみだったら良かったのに」

 ――うう、何も言えない。私はもう一口水を飲んで、息を吸った。

「片思いだって言ってたから、まだチャンスはあるかもですよね。もうちょっと頑張ってみようかなー」

 そう言いながら、桃子ちゃんは環に熱っぽい視線を送った。
 私は環の方を見ずに、グラスをぎゅっと握り締める。
 その時、桃子ちゃんのところに佐々木さんがやって来た。

「結城さん、そろそろビンゴの時間」
「あ、本当だ。すみません! 先輩、もし具合が悪くなったら、無理しないで言ってくださいね」

 桃子ちゃんは、慌てて自分の席に戻り、周りのテーブルを見回した。

「皆さん、次はビンゴの時間です! 一旦、席にお戻りください」

 桃子ちゃんの声に反応して、皆がぞろぞろと元々の席へと戻って行く。俯いていても、環や部長が席に戻ってくるのが視界の隅に入って来る。

「……森本さん」

 席に着くなり、環が私を呼ぶ声がした。恐る恐る顔を上げると、明らかに心配そうな面持ちで私を見ている。

「大丈夫ですか。顔が赤いし、具合が悪そうだ」
「だ、だ、大丈夫です。さっき、桃子ちゃんから水をもらいました」

 ああ、私、心配されているだけなのに、なんでこんなに声が震えてるんだろう。部長も心配そうに私に私を見て、水が入ったグラスを差し出した。

「これはまだ口を付けてないから、これも飲んで」

 私は部長からグラスを受け取り、もう一杯水を飲む。やり取りに気付いた桃子ちゃんが、
「先輩、大丈夫ですか?」
 ともう一度声をかけてくれたので、私は首を強く左右に振った。

 私のせいで皆の楽しい時間を壊すわけには行かない。

「大丈夫、ごめんね」

 こうして予定通り、ビンゴ大会が始まった。