「ダメです、瀬崎さん。
ここは、学校なんです。
使用中の札が掛けてあっても、人が入って
くる事はあるんです。」

私は、声が外に漏れないように、小さな声で囁く。

「じゃあ、週末、会いに行っていい?」

瀬崎さんが真っ直ぐに私の目を見て言う。

「その間、嘉人くんはどうするんですか?」

「実家に預けるよ。」

「寂しがりませんか?」

私も会いたい。

だけど、嘉人くんを犠牲にするのは、違うと思う。

「大丈夫。
嘉人は祖父母にもよく懐いてるから、喜んで
行くよ。
夕凪は、料理の家庭教師を呼ぶくらいの
つもりでいればいい。」

「料理の家庭教師?」

「出張料理教室。
27歳独身の女性が料理を習うだけ。
世間一般から見ても、常識の範囲内だろ?」

確かに。