「夕凪、今日は、ごめんな。」

瀬崎さんは、チラリとこちらに視線を向けて謝る。

「大人気ないけど、あいつと2人にしたく
なかったんだ。
夕凪に手を出すんじゃないかと思ったら、
どうしても我慢できなくて… 」

「いえ。
嬉しかったです。」

全部、私を思ってしてくれた事。

赤信号で静かに停止すると、瀬崎さんの手が伸びて、膝の上にある私の手を握った。

「夕凪、好きだよ。
この歳になると1年1年があっという間に
過ぎてくのに、たかが春までがこんなに長いと
思わなかった。」

うん。ほんとに。

信号が青になると、瀬崎さんは私の手を離して前を向く。

残された私の手が膝の上で寂しいと言っていた。