「まずカットからしてくね」
相変わらず豪快な笑みを浮かべる。

「はい、お願いします」

「最近、彼氏とはどう?上手くいってる?」
今度はニヤニヤしながら、聞いてきた。

「はい、なんとか…」

「ん?」

「彼氏、仕事がずっと忙しくて、最近寂しかったりで…」
私はありのまま素直に答えた。

「あ、そかそかーでも、仕事頑張る男性は魅力的じゃない?」
ちょっと真面目に答える飯島さん。

「ですね…飯島さんはどうなんです?彼氏とは?」
私も負けずに聞いてみた。

「ああ、今は微妙かなぁ…」
ちょっと険しく寂しそうな表情。

「何かあったんですか?」

「あ、あのね、実は、夏に、集団食中毒事件あったじゃない?覚えてる?」

「あ、はい。わかります」
私は心臓がドキンと大きな音を出したのを全身で感じた。

「実は、彼氏の母親が入居してて、事件に巻き込まれてしまったの」
ふぅっーとため息をつく飯島さん。

「えぇー?大丈夫でしたか?」
私は信じられないと思いながら、飛び出しそうな瞳を押さえつけ、恐る恐る聞いてみた。


「うん、幸いにも、たいしたことはなくて、ただ、自宅に戻ったから、母親の介護で彼氏も疲れきってて、ずっと会ってないんだ」


「ずっと?」

「うん、1ヶ月半、音信不通だよ」
いつも元気な飯島さんの笑顔が完全に消えた。

「ご、ごめんなさい。変なこと聞いて」
私は、頭を下げた。

「大丈夫よ。こっちこそごめん。あ、そうそうこの前、なんかの雑誌で見たけど、あの施設の社長、ずっと恋人に守られていたっていう記事見たよ」


「え?なんて言う雑誌?」
私は焦って即座に聞いた。

「うーん、病院の待合室で、見たから、よく覚えてないな」

「もしかして【週刊現代】ですか?」

「あーかもしんない」


あの時、あの夜遅くに不気味にやって来た記者だ。きっとそうだ。
恋人って、翔太郎のことだよね?

「あ、あの、写真とか名前載ってました?」

「んー写真は、目隠しされてたかな、名前は、なかった気がする」

「いつ見ました?」
私は話に必死で食いつく。

「どうしたの、美園ちゃん?」
鏡から、反射的に私をじっと見つめる飯島さん。

「ああ、なんでもないです」
私はまた頭を下げた。


恋人=翔太郎か?
私は英気を吸い取られた。