「すみません、看護師の真田里奈さん、いらっしゃいますか?」
私は凛とした態度で尋ねた。
「はい、ちょっと……ああー居ました。真田さん」
そこにいた年輩の看護師が甲高い声で里奈さんを呼んだ。
「里奈さん、こんにちは」
私は軽く会釈をした。
「こんにちは、あれ、姉は退院しましたよ」
不思議そうに見つめた。
「はい。知ってます。今日は里奈さんにお聞きたいことがありまして……お時間ありますか?」
里奈さんは、目をクルクルと回転させるかのような驚きを見せた。
「わざわざ病院まで……今ならいいですよ。あちらヘ行きましょうか?」
「すみません、ありがとうございます」
私は里奈さんの後をゆっくりついて行った。
私達は、自販機の前にある椅子に腰掛けた。
「どうされましたか?」
まだまだ不思議そうに私を見つめてくる。
「実は…真田先生、ご主人様の話が聞きたくて」
私は一呼吸した。
「真田先生とは、高校生の時に知り合ったと聞きました。真田先生のお母様が亡くなった時に、真田先生に何か変化はありましたか?どんな様子でしたか?」
「変化?うーん、司は、はっきり言ってマザコンでしたね。だから、発病がわかった時から、死んだように生きてました。私にも、連絡ほとんどくれなくなりました。」
やっぱマザコンねー
「入院されたのはいつ頃ですか?」
「確か、クリスマスの頃かな。で、亡くなったのは……夏、うん、8月だったわ。めちゃくちゃ暑かったから、真夏よ」
はっきりとその光景を思い出したような里奈さん。
「あ、そうそう、それでお金が必要で、バイト毎日してたわ。でも、ある時、泣きながら、助けてくれる人が見つかったって言ってたなー」
「助けてくれる人?どういうこと?」
私はその話に食いついた。
「なんか、お父さんの会社の社長さんがどうとか…なんかその辺りは曖昧ですみません」
お父さんの会社の社長さん?
それって、翔太郎のお父さんだよね?
私は空から星が降ってくるようなキラリとした態度を取った。
宝物を手に入れたーそんな気分。
「最後に一つだけいいですか?」
私は今度は背筋を伸ばした。
「真田先生のお父さんは、どんな方でしたか?」
「そうですね…仕事よりも家族、ってか、お母様をすごく愛していて、大事にされてました」
淡々と話す里奈さん。
「わかりました。ありがとうございます。あの、私が来たことは誰にも言わないで下さい。お願い致します」
私は深々と頭を下げた。
「わかりましたよ」
里奈さんは、最後には、優しく爽やかに答えてくれた。
「失礼します」
私はいろんな思いを巡らせながら、病院をあとにした。