穂乃香さんは、無事に退院し、一時的に妹夫婦のいるご両親の元へ引き取られた。
しばらくは、静養するようだ。
塾は冬期講習の準備に追われていた。
生徒数は、さらに増えた。
全校やや講師不足になるため、急遽、紹介できる講師はいないか、今いる講師達にお願いした。
「おはようございます」
目を擦りながら眠そうに入って来た真田先生。
「おはようございます。これからしばらく大変だよ。よろしくね。私もなるべく外の仕事は減らすから」
私も正直眠い……
「あ、そうだ、真田先生は、学生時代塾とか通ってた?」
「僕は中学生から、高校生の途中までです」
「途中?ん?」
私は不思議そうに見つめた。
「母親の病気の治療費や、入院費用がすごくて塾なかなか通うのが厳しくなって、途中で、やめました。あ、胃癌だったんです」
お母さんかー
お母さんが真田先生にとって全てだったんだな。
大好きだったんだなーきっと。
「でも、助けてくれた人いたんです……」
微かな音…
「え?今なんか言った?」
私は聞き取れなかった。
「いや、なんも言ってないですよ。あははー」
真田先生は、さらりと切りかわした。
うーん
なんか言ったよね?
気のせいかな?
やっぱり、翔太郎が言うように、母親の死にこだわる真田先生がちょっと気になる。