「この城でもいまだ迷子になるメアリが?」

「うっ……」


痛いところを突かれて、メアリは何度も城の兵や騎士たちに目的地まで案内してもらってきたのを思い出す。

幼い頃は間違えて王の居室に入ってしまったことが一度だけあったが、その時、壁に美しい女性の絵画が飾られていたのをよく覚えている。


『こんなところまで迷い込んだのか』


探しにきた王が部屋の絵画を見つめるメアリを抱き上げ、その女性が誰なのかを教えてくれた。


『彼女は、私の妻だよ』

『つま?』

『そう。愛して結婚した人だ』


優しい眼差しの中に寂しさを滲ませ、王が見つめていたのは亡き王妃の絵画。

王はメアリが勝手に部屋に入ったことは一切咎めず、医務室で落ち着きなく待っていたジョシュアの元へと連れ帰ってくれた。


「実は、帰りは地図を無くして迷子になりました……」


メアリが迷子の常習犯であることを良く知っている王には隠しても仕方ないと思い打ち明ける。

すると王は「さすがだな」と肩を揺らして笑った。


「だが、城下町のはずれとなると、私が至らないばかりに治安が安定していない地区もある。報告によると昨夜も野盗による事件があったばかりだ。間違ってもそんなところに入ってくれるなよ?」