(私が王女様の代わりなんておこがましいけれど、それが少しでも王様の心を慰められるなら)

そんな考え方こそおこがましいのかもとメアリが自嘲していると、いくつかの足音が聞こえてきてメアリは手を前で重ねると背をピンと伸ばした。

直後、迎賓の間に侍女を連れたアクアルーナ国王が現れ、メアリは片足を斜め後ろに引き、スカートの裾を優雅につまんで頭を深々と下げる。


「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく」


メアリの挨拶に王は「まったく」と声にしてから、太く優しげな眉の下にある目尻のシワを深め笑みを浮かべた。


「メアリ、堅苦しい挨拶はいらぬと何度も話したはずだが」

「ご、ごめんなさい。つい……」

「よい。それもメアリが立派なレディに成長している証だろう。だが、私はお前を赤子の頃から知っている。昔のように『こんにちは、王様』で構わないんだぞ。ジョシュアなど、挨拶もなしに私の不摂生を叱ることもある。むしろそれくらいでも私はいいのだが」

「さすがにそれはできません!」

「仕方ない。ならば次からは『こんにちは、王様』で頑張ってみてくれ」


茶目っ気たっぷりにウインクをひとつ投げてよこした国王は、豪華な金色のフレームが施された黒い革のソファに腰を下ろすと、メアリにも向かい側に座るよう上品な手つきで促す。