アクアルーナ城は海を背に建造された美しい城塞だ。

城門に向かって架かる橋は陽が暮れ始めると連なる外灯に明かりが灯され、城へ優しく道案内してくれる。

オレンジ色の太陽がゆっくりと傾き落ちてゆく夕景の中、メアリは完成した薬を持って小さな黄色いランプの光を横目に橋を渡ると、城門の両脇に立つ兵士に会釈をした。

城の門番は交代制だが、もう何年もジョシュアと共に出入りしてきたメアリはほとんどの門番兵に顔を覚えられている。

王宮医師であるジョシュアの助手なので気軽に話しかけてくる者はいないが、それでもメアリが笑顔を浮かべれば笑みを返してくれる兵士は多い。

今も「お疲れ様です」と声を掛けられ、メアリもまた同じ言葉を送ってから門をくぐった。

城壁に囲まれたアクアルーナ城内は、明日の調印式出立に備えていつもより人の数が多く、近衛騎士たちの姿も見られる。

メアリは知り合いを見かけると挨拶をしながら、王に謁見すべく案内の者に連れられ迎賓の間に通された。

メアリは室内に飾られた豪華な調度品の数々を眺めながら、今日も共にお茶を飲むのだろうかと考える。

国王はメアリが一人で薬を届けに来た際、決まって迎賓の間に通し、お使いのご褒美にと美味しい紅茶をご馳走してくれるのだ。

メアリがまだ幼かった頃は、医務室に顔を出す度に世界各国の美味しいお菓子をメアリの手に握らせてくれた。

幼いメアリはそれをただ素直に喜んでいたが、今考えてみると、昨夜ユリウスが話していたように、行方不明の王女にメアリの姿を重ねていたのかもしれない。