店員さんから本を受け取って、
私はそれを胸に抱きしめる。


すると珀は唇に弧を描いた。


〈お買い上げいただきありがとうございます〉


「あなた、この間も思ったけれど
 ちゃんとお礼とか言えるのね」


〈なんだそれは。
 人のことを悪者みたいに〉


「じゃあ珀はいい人なの?」


〈さあな。それは俺が決めることじゃない〉


珀は多分、いい人なんだと思う。


だってあんなに素晴らしい物語が書けるし、
貴子とのことを心配したり、


大志を思ってあんな手紙を書いたり、
きっと心が綺麗なんだと思う。


それを素直に思わせてくれないような
表情をするところは可愛くないけど。


そんな可愛げの無さも
この人のいいところなのかもしれない。







帰り道、私は珀を横目に見ていた。


珀は何食わぬ顔で私の隣を歩いている。


私の視線に気付いたのか、
しばらくして珀は私を見て少しだけ微笑んだ。


「ねえ、珀はどんな子どもだったの?」


私が聞くと、
珀は露骨に嫌そうな顔をした。


〈知るか。それは
 本人に聞くような話じゃないだろう〉


「じゃあ、大志に聞いてもいいの?」


〈あいつはやめておけ。
 きっとロクなことを話さないだろ〉


そっぽを向いて、珀はそう言った。


何か聞かれて困るようなことがあるのかな?


珀の幼少時代はどんなものだったんだろう。


とても気になる。


どうやって今の珀が出来上がったのかは
知りたいと思った。


「じゃあ、彼女はどんな人だった?
 梨花は彼女じゃなかったんだよね?」


〈梨花は、真奈美は
 彼女よりも大切な、存在だった〉


真奈美と呼んだその声が
心なしか切なげに聞こえた。


〈彼女はいたことはない。
 そういうのは面倒だからな〉


その言葉に驚きの声をあげる。


彼女、いたことないんだ?


顔は整っているんだから、彼女の一人や二人、
いたっておかしくないのに。


意外にも珀は恋愛未経験者だった。