校舎を出て右にまっすぐ。


赤いポストが見える交差点を左に曲がると、階段がある。


その階段を降りていくと、
古びて小さいけれど人が集まる本屋さんがある。


私は入り口からゆっくりと入ると、
まず本屋さんの匂いを感じた。


図書室とは違った本の匂いがする。


心地よくて、安心するような、そんな匂い。


紙の匂いをこんなに感じることが出来るのは
本屋さんだけだと私は思う。


文庫が置いてある場所まで行って背表紙を眺める。


作家のあいうえお順に並んだ本たちを見て、
サ行のところまですっ飛ばす。


「杉内珀」の名前を探して、
背表紙に指を這わせた。


しばらくそうしていると、
その指先に「杉内珀」の名前を見つける。


見つけた途端嬉しくなって、珀の顔を見た。


珀はにやりと笑って私の隣に立っている。


私は一冊だけ抜き取ると表紙を見つめた。


「片翼の蝶」だった。


ハードカバーと違った装丁もまた素敵だ。


私はその本を胸に抱きしめて、
そして次の本を取った。


「嫉妬と憧憬」。


二つを手に取り、財布を取り出した。


〈片翼の蝶はもう読んだだろう。何故買うんだ〉


「いいの。こうなったら揃えたいじゃない?」


〈そんなもんか?〉


「そんなもんなの」



私が言うと、珀は不思議そうに首を傾げた。


私の行動が分からないとでもいうように、眉を顰める。


そんな珀を無視して、レジへ向かった。


千円札を出してお釣りを受け取る。


ブックカバーをつけてもらって
袋に入れられる本を見る。


この瞬間はとても胸がわくわくする。


これからこの本が本屋の手元を離れて
私の家に来るんだって思ったら妙に嬉しくて、


早く読みたい!と思う。


私だけかな?


本ってやっぱり素敵だなと思うのはこの瞬間だった。