新しいページを捲ってペンを突き立てる。


サラサラと、ペンを動かしていく。


私が私であるために。


これ以上私を嫌いにならないように。


そのために物語を綴る。


早く、早くこの悲しい気持ちを静めておきたい。


私は夢中になって物語を書き続けた。


〈ふうん。なかなか面白いものを書くんだな〉


急に珀の声があがって
びくりと肩を震わせる。


見ると珀は私の手元を覗いていて、
顎に手を当てて関心そうに見つめていた。


私は板書用のノートを開いた。


―これ、面白い?


それを見た珀は一度私を見たけれど、
もう一度手元に視線を落とした。


〈ああ。面白いとは思う。
 でもここはもっと描写を変えたほうがいい〉


―どうやって?


〈目で見たものをそのまま見ていたと
 表現するのもいいが、
 もっと別な表現をしたほうがいい〉


どういうことか分からなくて首を傾げると、
珀は小さくため息をついた。


〈例えばここ。暑かった、ではなくてもっとこう、
 例えば……太陽の陽がじりじりと焼きついて、
 私の背中を焦がしていく。
 少し遠回しに書き出してみるといいぞ〉


なるほど。そんな手があるのか。


私は消しゴムで自分の文章を消して、
珀が言ったとおりに書き直した。


文章が増えて詰まってしまう。


でも、さっきよりも小説らしくなったと思う。


私はノートを眺めた。


〈俺が言ったとおりに書いていいのか?〉


―いいの!もっと教えて、珀先生


〈先生……いい響きだな〉


珀は面白そうににやりと笑うと、
顎先に手を添えたままノートを眺めた。


先生と言ったのが相当気に入ったみたいで、
何度も何度も呟いてた。


その様子がおかしくて笑う。


その後も珀は時折アドバイスをしては
黙って私の作業を見守っていた。


私は自分の小説が変わっていくのを感じながら
夢中でペンを動かしていた。